二十五話 私は、決めれる者
「う…うぅ…?」
目を覚ました。
広がる視界は、白一色だった。
どこだろう、ここは…。
寒い。
そりゃあ、布団もなにもかけていないから、寒いだろうなと思いつつ、うつ伏せに寝ている自分の状態を反転させようとすると、妙に床がゴツゴツしている。
上半身を起こしてみると…そこには見知らぬ……違う。知っている。
辺りは、昼の割には太陽が出ていなくて暗い。しかし、上を見上げて見ると、いつも見るような灰色の雲じゃなくて、赤黒いような…
「あぁ…思い出した」
ここは、戦地だ。
炎に囲まれた野原の中心に、私はいた。
そうだ。私は、戦っていて、なにもできなくて、落下したんだった。
それを知らせるかのように、はるか上空には、今も私達を倒したあの神食いが、バサバサと翼を羽ばたかせている。
空を見ながら、ぼんやり考える。
あのドラゴンに、どんな倒され方をしたんだっけ…。
……たしか、まず、ユニコーンはお尻を食いちぎられて、その後角を折られて、噛み砕かれて…落下……ッ!
「ユニコーンッ!ナビーちゃんッ!」
振り返って、背後を見た。
すると、そこには見たくもない光景が広がっていた。
美しい白い姿が、泥で汚れて、何よりまだ血を流して倒れているユニコーンと、全身傷だらけで倒れている、ナビーちゃんの姿があった。
二人の側に駆け寄る。いや、動物だから、二匹?いや、そんなことはどうでもいいだろっ!
二人とも、傷がひどく、特にユニコーンの傷がひどい。
背中から尻尾があった部分にかけてが、普通より二分の一も欠けていて、当然尻尾が無く、おびただしい量の血が流れていた。
早く手当てをしないと、二人とも命が危ない。ユニコーンは特に危ない。
と言っても、自分も傷だらけなのは同じで、左肩に電流が走ったような痛みが生じる。
本能的に、左肩の痛む箇所に触る。
ピチャ…。
指先から伝わる、ネバネバした血の感触。
おそらく、肩に切り傷を作ったのだろう。擦り傷よりも鋭い痛みが肩に充満している。
いや、今は自分の傷の事よりもユニコーンの傷の方を気にするべきだ。
しかし、いくら布をつなぎ合わせても、これだけの傷を塞ぐような布はもっていないし、あぁ、どうしよう。
だってこんなひどい傷、今まで見た事もないし、困惑するのも当然だ。
『…お、い…そな…た…』
「キャッ!」
突然、頭の中に声が響いてきた。
若い男性の声。
この声は、多分この声は…
予想だけど…
「ユニコーン?今のはユニコーンなの?」
『そうだ。私だ』
予想的中。
だとしたらこの声は一体何なのだろう。
『テレパシーです』
そこでまた、頭の中に新たな声が響いてきた。
この声は、よく知っている。
私のサポーター、マリーだ。
「テレパシー…?」
『そうです。大抵、召喚獣というものは、その主にしかテレパシーで言葉を伝えられないのですが、心を通わせた者や、どうしても伝えたい事がある時に、主他人関係なくテレパシーを送って、言葉を伝えることが出来ます』
『へ、へー…って、マリーは今までなにしてたの!?こんな状況なのに!』
『南の島で、ゆっくりバカンスを…』
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ねシネ。
『嘘です嘘です!許してください!そんな口に出さずに頭の中だけで死ね死ね連呼するのはやめてください!……本当は、武器の調達に行ってました。貴方の新しい武器の』
『武器の、調達?マリー、そんなこと出来るの?』
『できますよ。今、武器をそっちに送りますから、目を瞑っていてください』
目を瞑れって言われたって、一体どうやってサポーターが武器を送るんだろう。
そう思いながらも、目を瞑る。
『少しよろしいか?』
すると、目の裏には白くてまっさらな、何もない世界が広がり、そこに一匹の一角獣が佇んでいた。
その姿は、猛々しくも美しい、角が勇ましく光る、傷つく前のユニコーンだった。
『な、何ですか?』
『いや、私は、貴女にどうしても伝えたいことがあって、こうして、貴女の前にいる』
『伝えたい、事って?』
『いや、実は、少し前から気になっていたことなのだが、何か、貴女が持っている剣が、私を呼んでいるような、そんな感じがしているのだ』
ユニコーンの言っている事は、不思議だった。
剣がユニコーンを呼ぶ?いや、そんな事あるわけ…
『私も不思議な感じがするのだ。剣が直接私を呼んでいるのではなくて、私を、求めているような、そんな感じがするのだ』
『求めている?剣が、あなたを?』
『ああ…だから私は、その剣の要求に答えようと思う。一か八かの賭けだが、…剣が届いたら、私をその剣で突き刺してほしいのだ』
『えっ!?突き、刺す…?』
いくら剣がユニコーンを呼んでたって、それは気のせいかもしれないし、そこまでする必要があるのだろうか。
いや、何より…
『そ、そんなことしたら、あなた、し、死んじゃうじゃない!』
『だから、一か八かの賭けと言っただろう?貴女に刺されて、もしそれが気のせいだったら、私は死ぬのみ、だが、それがもし本当だったら、何らかの奇跡が起こって、あの忌々しい竜を倒せるかもしれない』
『何らかの奇跡って、あなた正気?』
『やってみなくちゃ、分からないだろう』
それが最後の言葉。
瞼の裏に映った世界は、光と共に消え去った。
瞼を開ける。
すると、目の前の地面に一本の剣が刺さっていた。
まるで、抜けと言わんばかりに突き刺さっていた。
その剣は、丁度柄と刃の真ん中に、縦に長いひし形の、青い、宝石のようなものが埋め込まれていて、その宝石の周りは、透明な結晶で刺々しくコーティングされていた。
刃は、長い、おそらく1メートルを軽く越しているだろう。長剣、といったところだろうか。
『その剣は、「未来を断つ剣の、軽長剣モデルです。その剣の原型は、大剣なのですが、鍛冶屋さんに無理を言って、改造してもらいました』
未来を断つ剣。
確かにこれは、その名の通り、”出会った者は生かして返さない”的な、そんな威圧感を出しているような気がする。
そんな剣を、私は扱うのか。
そんな剣で、……私はユニコーンを穿つのか…。
『そうだ。その剣で、私を貫け』
また頭に響いてくる、ユニコーンの低い声。
できない。私には、できない…。
その一か八かの賭けを私には到底できない。
『やってください。サクラ様』
そこに、ユニコーンとは違う、別の声が響いてくる。
それは、ユニコーンのような低い声ではなく、優しい声で背中を押してくる、マリーの声。
「できるわけ…ない」
『できる、でしょう?あの、洞窟から逃げるときだって、スバルさんの、必ず生きて帰ってくるっていう言葉を信じて、勇気を出して、決断して、逃げてきたんでしょう?だったら、それがユニコーンでも、同じ”仲間”だから、その言葉を信じてユニコーンを斬り裂けるはずでしょう?その言葉を信じて、決断できるはずでしょう?』
ああ、なんでここで妙な事をマリーは言ってくるのだろうか。
あの時は、スバルの涙を見てしまったからで、あの時は、強制的に決断させられたみたいなものだ。
だけど、今は違う。
今は自分が、自分で決める、決断の時だ。
そんな決断、まだ私には早すぎるのだ。
なのに、マリーはまだ私に追い討ちをかけてくる。
『心を通わせた仲間だから、スバルさんを信じれた。
なら、主にしか届かないはずの、ユニコーンの思いが届いた、つまり、心を通わせた、ユニコーンという仲間を、サクラ様は信じれるはずです。
だから、あなたは、なんの迷いもなく、ユニコーンを穿つ事ができるはずです』
マリーは、強い声で、そう言った。
どうしても伝えたい事があるからではなく、心を通わせたからテレパシーが届いたと言った。そこまで言われてしまっては…
「あぁ、もう、そんな言葉…反則だよ」
私は大きなため息を吐いた。
そして、剣の柄を手にかけ…
「そこまで言われたら、もう、やるしかないじゃない」
ゆっくりと引き抜いた。
思えば、こんな事は前になんどもあったのかもしれない。
スバルと冒険することも。
剣士に職業を決めたことも。
スバルを信じて逃げたことも。
今までの一つ一つの決断は、とても大きな事だった。
しかも、その決断に、全て大切な人が関わっていた。
決断っていうのは、”仲間”という、大切なものが関連しているから、だから決断っていうのは、一つ一つが、ものすごく重いんだと思う。
私はまた一つ、大きな決断をする。
仲間という、重いものが関わった、大きな大きな決断。
その決断の答えも、すでに決まっている。
大切な仲間のために、私は…
「分かったよ。ユニコーンを信じてユニコーンを穿つ。それしか私には、選択肢がないよね」
ユニコーンに向かって歩いていく。
『さぁ!やれ!』
軽いその剣を両手で持ち上げる。
刃が貫こうとしているのは、ユニコーンね腹部。
両目で、外さないように、しっかりとユニコーンを、真一文字に見る。
そして…
「てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
その剣を下ろした。
ユニコーンに、刃の先が突き刺さる。
その瞬間、私の視界は眩い光で埋め尽くされた。
私の身体がたくさんの光に包まれ、おそらく外部から私の姿に触れるには、たくさんの光に阻まれて見ることすら許されず、光の竜巻によって吹き飛ばされるだろう。
仲間を信じることによって、仲間に信じられることによって、生まれた、彼女の能力。
彼女の、無属性解放によって生まれた、彼女だけの特殊能力。それは…
心を通わせた者と、一体化する能力!
やがて、彼女を包んでいた光の欠片が、一気に払われ、中から現れたのは…
純白の鎧を纏った、美しく神々しい騎士。
その純白に溶け込むような、金髪を風になびかせ、美しく直立し、左手を胸に当て、右手には長剣をしっかりと持っている。
これだけ姿が変わったにも関わらず、彼女の雰囲気は健在だ。
静かに目をつむり、唇だけは弧を描くように優しく笑っている。
その姿は、まさに、あの美しい、一角獣。
そのユニコーンは、ゆっくりと言った。
「覚悟してよね。私は、仲間を信じて決断できた私は…」
目をキッと開く。
「きっと!強いんだから!」
ちなみに、サクラの剣は宅配で送られてきました。
マリーが、本当は、チャラララチャラララチャラララチャラララチャラララチャラララチャラララチャラララ…チャチャチャチャーン!と、某緑の衣の勇者的な事をやりたかったそうです。




