二十話 望まない覚醒
(8/8)ワイバーン→ドラゴンに変更
「猟犬…」
ヘルハウンドとは、地獄にいる猟犬のこと、と、聞いたことがある。あまり鮮明には覚えてはいないが…
「そんなに強いの?」
「まぁ、見てれば分かるナビよ」
そう言い、ナビーちゃんは「四剣士」のいる方へ向き直った。
私もそちらへ目を移す。
一体、何を見られるんだろうか。
☆☆☆
「あんま頑張りすぎんなよおっさん!」
「はっ、まだほんの十分の一じゃよ!」
そう言いながらも、無精髭の男は、大剣を正面に両手で構え、バチッ…バチッ…と、電気が弾ける音を何度も出している。
「怖えぇよな。あれで十分の一って言うんだぜ?マジでバケモンだよなあのおっさん。人間が出せる力じゃねぇよ」
「そうね。まったく、あのおじさんはすごいわ。まるで地獄から這い上がってきたみたいな形相よね」
キリアと、少しチャラい容姿と口調をした男。タイガと言う者が、無精髭の男、パイスと言う者について話している。
「当たり前だ。ジジイの裏姿は『猟犬』。地獄から這い上がって来たっていう表現はまるで相応しい。
冒険者ランクは241。俺たちは平均70ランク程度、到底足元にも及ばない存在だ」
ランク…と、いうのは、簡単に言えば冒険者の戦闘の熟練度を表したものである。
これから明らかになるので、現時点ではそう解釈してほしい。
「数ある冒険者の中で、ランク200越えは滅多に見ない存在よね。しかもあの雷属性の強大さ。どれだけ武器の可能性を引き出したのか」
「もうあれは才能と言えるよなぁ〜。でも、あのおっさん、力が強大すぎて近寄れないんだよなぁ〜。もう裏姿一匹狼でいいんじゃねぇの?」
「バカか。ていうか、ああいう、戦闘時に孤立してしまいそうな人の為にお前がいるんじゃねぇか」
「相変わらず冷たいねぇ火属性なのに。いや、確かに俺は遠距離が得意だけどさぁ〜、君達も一応使えるよね?遠距離攻撃」
「確かにそうだが、でも射程が短い、結果、お前の攻撃が一番有効だ。頼む」
「チッ、…まぁ、仕方ないかぁ〜。はぁ〜、面倒くせぇ〜」
そう言いながら、タイガは背中の鞘から太刀を抜き取り、なんと右手だけで持って体勢を低くする。
「と言いながらも、ホントはやる気なんだろ?」
トーガが腕を組んで…
「神速」
ニヤリと笑う。
同じく、「神速」と呼ばれた男、タイガも…
「めんどくせぇー」
ニヤリと笑った。
☆☆☆
「す、すごい、あれが、『猟犬』…?」
私は、悪寒が走る程の光景を見せられていた。
大剣を構え、体勢を低くし、目の前にいるドラゴンに牙をむく。
そして…
もうそこには、パイスの姿は無い。
到底、眼では追えないような速度で、瞬間移動したかのように、地面を蹴って、ドラゴンの腹部の前に移動し、右上から左下に斬撃。
ドラゴンは斬りつけられたことに、気付いた時は、一つ目の斬撃をくらってから1秒。
パイスにとっては、1秒でドラゴンの目の前に行くことは、いとも容易い。
そして縦に斬撃。鼻先を斬り、そのまま次の場所に向かう。次の場所とは、尻尾だ。
「グァァァアァァァァァ」
「その雄叫び、もしかして一撃目の時のじゃねぇだろうなぁ」
次の場所を決めて、尻尾を斬撃。
ドラゴンは切り株になった尻尾を見ながら、次の斬撃をくらっていた。場所は、また腹部。先程与えた斬撃で、まだ血が収まっていないが、その傷に乱れ斬る。
乱れ斬りに要する時間も、1秒で十分だった。
そして、いつの間にかドラゴンの数メートル後ろに退いていた。
パイスは、わずか十秒足らずで、辺りに血の雨を降らした。
強い。強すぎる。
なぜ、これだけの時間で、あれほどの傷を与えられるのだろうか。
「あのおじさんが移動するときに、青い物が見えないかナビ?」
「う、うん」
「あれは、まぁ簡単に言えば、雷ナビね」
「雷…?」
「あれは、多分『光速』という技を使ってるナビね」
「『光速』…?」
「ナビ。光の速度で移動できる技ナビ。でも、あまりに早く動くから、反動が大きいナビ。こういう動きの鈍い敵に使うのが適正ナビ」
なるほど。
でも、考えてみると、光の速度で移動できると言っても、かなりの加減が必要だと思う。多分私が使ったら、移動したい場所の遠く彼方まで行ってしまいそうだ。それを制御できているとは、彼は凄まじい。
それに、大剣の扱いも、まるでレイピアでも扱っているかのように軽そうだ。
一撃一撃が重いというのに、その反動がまるで無い。
もう、彼に敵はいないんじゃないだろうか。
現に尻尾までぶった斬っている。
「しかも、武器もすごいナビよ。彼が使っている武器の名前は、『雷竜の右手』というナビ。そこらへんの武器屋で売ってる大剣とは格が違うナビ」
そのことに関しては、薄々感じていた。
何か、血を求めているような、強いものを斬りたいと叫んでいるような、そんな感じが、武器からここまで伝わってくる。
そんな武器が、この世に…
武器…
武器…
武器…?
「あれ!?」
「どうしたナビ?」
「わ、私の武器が無い!」
「は、はぁぁ!?」
☆☆☆
以前として、戦闘を続けているパイス。
状況は、パイスに大いに余裕がある状態だ。
しかし、パイスは、何か引っかかっていた。
ーーこんなに簡単に倒せるものなのか?こんな図体だけのドラゴンだとは思っていなかったのだが…
その通りだった。
今の所、ただ同じ場所に立っているだけで、炎も吐かないし、爪で攻撃しないし、飛ばないし、ただ、与えられた傷を回復しているだけだ。
パイスの経験からすると、これまで戦ってきた数々のドラゴンの中でも、ある意味このドラゴンは一番弱い。
図体だし、隠し芸も無い。
なんとなく、嫌な予感を感じていた。
斬って斬って、斬りまくって、回復が追いつかないほどに斬って、それでも隠し芸を見せない。後ろから遠距離攻撃…残撃破を飛ばしてくるタイガの攻撃をくらっても、なにも変化無し。
経験の浅い冒険者なら調子にのるところだ。
しかし、パイスは色々なことにおいて経験豊富だ。
ついにやられっぱなしでも変化が無い理由を見つけたのだ。
ーーまだ……成長途中…?
そう。このドラゴンは、まさにそんな状態だ。このままで終わるはずがない。それを知っているのはパイスだけ…
そう、仮定して、もしそれが正解だったとすれば…
ーー成長する前に殺さなければ…
そう考えると、パイスは一気に焦る。
額やほおを汗が流れ、これまで十分の一だった力を一気に十分の八にあげる。
よりいっそうスピードは増し、目にも止まらぬ速度で切り刻んでいく。
「雷撃斬ぉッ!」
一方、遠くから遠距離攻撃を放っているタイガ達は…
「おい!なぁに焦ってんだよじいさぁん!」
まぁ、この男には、当然こちらが優勢としか見えていないのである。
ので、パイスが焦っていることに関して、ただ早く決着をつけたいのかと思っているだけのように見えていた。
全く、焦っている様子は無い。
「逃げろぉぉぉっ!!」
これだけ、焦って叫んでいるというのに、緊迫しているというのに…こちらは…
「え、なんでぇ?」
という間抜けな返事。
そして、パイスにとって、起こってほしくなかった事は、避け難く訪れるようになる。
まず、その事にいち早く気付いた者が、ナルーガだ。
現在、ナルーガはパイスが戦っていたため、近づけないでいたが、パイスの流れ弾が当たらないギリギリの距離で、次の作戦を練っていた。
ナルーガが、ドラゴンの様子を観察しているところで、何故か先ほどまで戦っていたパイスが、背後に向かって走り出していたのを感じ、異変をいち早く知ることができ、すでに抜刀していた刀を両手で掲げた。
突如として、巨大なドラゴンは光を放ちながら爆発した。
爆発し、地面がえぐれ、巨大な岩が、ナルーガに向かって飛んでくる。
それを、ナルーガは、縦に刀を振る。
岩は見事に一刀両断され、ナルーガの両脇を通過し、岩は落下。ナルーガにかろうじて当たらなかった。
一方、パイスが、なぜ、後方に走り出したかと言うと、えぐれて飛んでくる岩が、タイガに向かっていったからだ。
このままでは、タイガに岩が激突してしまう。
光の速度でタイガの前に移動し、振り返ると、ちょうど岩が向かってきていた。
パイスは、大剣を振り、飛んでくる岩を切り裂いて、タイガに当たらないようにした。
これで、なんとか難は、なんとか逃れることができた。
しかし、それも一時的だ。
爆発は収まり、爆風と、砂埃で、爆発地点になにがあるのかわからない。
つまり、よく見えない状態だ。
が、そこに注目していたのは、ナルーガとパイスだけ。
まぁ、そこに注目しても、意味が無いのだが…
「パイスさんっ!」
前方に居るパイスに近づいてくる、キリアという女剣士…
パイスが振り向くと、そこには切り株があった。
「「「は?」」」
そこに居合わせたもの全てが困惑した。
パイス、トーガ、タイガは、パイスのすぐ後ろに置いてある切り株を見て、目を大きく開き、キリアは、いきなり変わった景色と、身体が異常に軽い事と、赤い液体を見て、目を大きく開く。
その開いた目を、閉じることは、一部を除いて一応できたが、すぐには瞬きをすることができなかった。
一部、つまりキリアは、大きく地面に叩きつけられ、重たい重たい大木となった。
その光景を、パイス、トーガ、タイガは見て、しばらく硬直した。
木が、切り倒される、斬り倒される光景を…
「油断は禁物だよーん」
その隙に、トーガの後ろには、180cmくらいの身長を持つ、蝙蝠のような翼と、鱗、尖った牙、剣を持った、ドラゴンが、剣を振り上げていた。
トーガ伐採される……伐採されてしまう。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして振り下ろすと、ドラゴンが感じる物は、肉の感触ではなく、金属の感触。
ドラゴンに聞こえる音は、肉が斬れる音ではなく、金属と金属がぶつかり合う、激しい金属音。
ナルーガだ。この場でこの攻撃を防げる者はナルーガしか居ない。
つばぜり合いが生じる。ナルーガとドラゴンの力の差は互角だ。
同じ太さ、同じスピードで伸びる、力の平行線。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
しかし、その二つの平行線も、ついに片方が勝ち、片方が負ける。
ナルーガは、ドラゴンを前に押し出し、ドラゴンは少し吹っ飛ぶが、手足の爪を地面に引っ掛けて、ズザザザと滑り、少し強引に動きを止める。
「君は…誰?」
つばぜり合いに競り勝ったナルーガは、すぐに体勢を立て直し、刀を正面に構えて、目の前にいる者に何者か問う。
すると、ドラゴンは手の爪を地面から抜いて、ナルーガをしっかりと、真っ直ぐに見て、ナルーガの問いに答えず、自らが言いたい事を言った。
「さあ、戦争をしようぜ」




