一話 ナビどらごん
召喚士は、倒した魔物の肉を剥ぎ取り、サラマンダーに与えている。
「ただの召喚士って…いやいやいや、いきなりただの召喚士がでっかい竜出すわけないじゃない。明らかに上級召喚士なんじゃないの?」
「サラマンダーは竜じゃねぇぞ。精霊だぞ?なっ。サラマンダー」
「アァオォ」
え、あ、なるほど。
サラマンダーは竜じゃないんだ。って違くて!今はそんなことはどうでもいい!
「だから、貴方何者?」
「だからぁ、ただの召喚士って言ってるだろぉ?何回も同じこと聞くな」
ふざけている。ただの召喚術師はサラマンダーとか召喚しない。
でも、これ程の力を持っていながら名前は聞いたことはないから、本当にただの召喚術師なのかもしれない。
試しに名前を聞いてみる。
「貴方。名前なんていうの?」
「名前か?…実は今は事情があって言えない」
え?名前を言えない事情…?
どんな事情だろう。でも呼び名がない。
「だけど、スバルって呼んでくれ。名前がなかったら不便だしな」
「分かったわスバル。私はサクラ」
一応私の名前も言う。
「サクラか。よろしくな、サクラ」
そう言いながら、スバルという召喚士手を差し出す。
握手だろう。私も手を差し出し、黙って握手する。
「ちょっと!僕の事も忘れないで欲しいナビ!」
握手をし終えると、どこからか、可愛らしい声が聞こえる。しかし、気配は無い。
どこからだろうか。
「忘れてねぇよ。出てきたけりゃ出てくればいいじゃねぇか」
スバルがまるでさっきの声の主を知っているように声の主に言った。
って言っても、スバルが正面を向いている方だが…
「分かったナビ。じゃあ失礼するナビ」
またどこからか声が聞こえたなと思ったら、いきなり私の目の前に緑の魔法陣が浮き出てきた。
地面でもなく、木でもなく、空間に魔法陣が現れた。
その中から、なんとも可愛らしい、黄色の小さなドラゴンが出てきた。背中についた羽をパタパタさせているところが、なんとも可愛い。
「キャー!可愛い!」
私は感情が抑えきれなくなってついに、声を上げた。
「やめてくれナビ。僕は熟女好きナビ。こんなつるぺたまな板は好きじゃないナビ」
「ちょっと!つるぺたまな板ってどういう事よ!」
「もちろん!スタイルのことナビ!もっとボンキュッボンな熟女がいいナビ!」
「黙れ!この変態ドラゴン!」
スバルはドラゴンにげんこつした。
「痛いナビ!やめろナビ!」
などと言う。
私、そんなにつるぺたかなぁ。まだ14歳だけど、胸は出てきた方なんだから。び…危ない危ない。
で、ドラゴンちゃんに好かれなかったのは残念だけど…
「ねぇスバル。この子は何?」
今、サラマンダーと「サラマンダー、久しぶりナビ」「アオッアオッ」「わー!火を吹くなナビー!」などとやりあっているこのドラゴンだ。
「ああ、こいつはナビどらごんって言うんだ。いつも旅の手助けしてもらってる」
「へぇー」
こんな可愛いドラゴンがいるなら、私もこの子と一緒に旅をしてみたい。
そう思って、ナビどらごんに挨拶する。
「よろしくね。ナビどらごんちゃん」
「何?けっこんの話かナビ?それならもっとスリーサイズを完璧にしてくるナビ!」
「だから黙れ変態!」
「痛ッ!ナビ〜…」
ナビどらごんはスバルに二度目のげんこつをくらったあたりで、流石に懲りたようだ。
「ところで、スバルはなんでこんなところに?」
しかも、背中に大きな傷を負って、ボロボロになってだ。
「あぁ……それは……」
「実は、し…じゃなくてスバルは魔王と戦っていたナビ」
「あ、こら!」
魔王。
……確かに倒れていた時もつぶやいていた。魔物の頂点に君臨する王だ。
しかし、何故スバルが魔王と……?
「まぁ、別に隠すことでもないか。…まぁ、こいつの言う通り、天空の魔王城にて、魔王と戦ったんだが、こてんぱんにされちまって、んでここまで飛ばされたらしい」
あれ程の実力を持つ召喚術師、スバルを……こてんぱんに…?
……どうやら魔王は相当強いらしい。
私は息を飲み、引き続きスバルの話を聞いた。
「魔王とは、序盤は互角だったんだが、相棒のユニコーンが殺されて、そこから俺は押されていった。フェニックスを殺されて、グリフォンを殺されて、主力がいなくなって、俺は隙を突かれて背中を鎌で斬り付けられた。そこから記憶が無い。んで気づいたら、ここにいた」
「そのサラマンダーは?」
「ああ、こいつを使おうとした時、俺は斬られたっていうわけだ」
「なるほど、」
あの、サラマンダーより強い主力を持ってしても、倒されてしまった。
もう、聞くだけで魔王の恐ろしさがわかってしまったような気がする。
「くそ!ユニコーン…」
スバルはもう魔王に倒され、この世にいないユニコーンを悔やんでいる。
「でも!ユニコーンから貰った卵があるナビ!」
「………そう…だったな。…ユニコーン…」
スバルは本当に悲しそうだ。相棒というくらいだから、スバルとユニコーンには強い絆が生じていて、それを失った。
私もスバルに同情したい。
「………こうしている場合じゃない。早く召喚獣を探して、契約して、魔王に挑まないと…」
スバルはサラマンダーを魔法陣の中に戻して、ナビどらごんに次の行き先を聞いた。
ナビどらごんは、イリシアネの街を推奨した。イリシアネの街は森を抜けた先だ。
そして、スバルは私に向き直った。
「じゃあな。サクラ。残念だがここでお別れだ」
スバルは私に別れを告げて、イリシアネの街に向かおうとしたのを、私が引き止める。
「待って!私も、その旅に連れてっ…」
「ダメだ」
が、引きとめようとした私の声を遮って言った。
「どうして…」
「どうしてじゃない。すごく危険だ。命に関わる。俺以外の犠牲者をこれ以上出したくない。…もう、二度と…」
「でも、イリシアネの街なら、この森を抜けた先だから、」
「………………」
「ねぇ」
「…………………」
「ねぇってば」
「…………………はぁ、分かった。イリシアネまでだぞ?」
私は明るく返事した。
「はい!」
そして、スバルについていく形で私はイリシアネの街へ向かうことにした。
………この時、サクラにとって最大の悪夢が始まろうとしていた事は誰も知らない。




