出発
食事が終わると、タリアナは、昨夜作った小屋を崩し始めた。
「せっかく作ったのに……壊しちゃうのか?」
「うん。このまま形跡を残しておいたら、見つかる可能性が高くなっちゃうでしょ。それに、来た時よりも綺麗にして去るのは旅人の常識じゃない?」
「……そうだっけ?」
「そうよ。それにしても、今日はいい天気ね! ルシアンの服、もう乾いたから着替えてきても大丈夫よ」
「タリアナはそのままの服で行くのか?」
「ええ。さすがに、あのドレスじゃ動き辛いしね」
「それなら、俺もこのまま行く」
「気に入ったの? 別にいいんだけど……粗末すぎない? ルシアンって、実は結構お金持ちのお坊ちゃまだよね?」
「え……、どうしてそう思う?」
「だって、あなたの着てた服……パッと見は平民風だけど、上質な生地を使ってて随分高そうなんだもの。それに、テントや着替えを自分で持たずに同伴者に持たせているなんて、主従と一緒にお忍び旅行をしている高位貴族でもなければ、説明がつかないでしょ?」
「……鋭いな」
「わざわざ身分を隠していたぐらいだもの。何か訳ありなんだよね? 」
「……俺は……あ……」
何か話そうとして言い淀んだルシアンに、タリアナは笑いかける。
「別に、わたしから細かい素性を尋ねる気はないわ。結局、ルシアンはルシアンだもの。山を超えるまでは、旅仲間だしね。……さあ、出発しましょ」
タリアナは、大きな袋を手に取った。
中には洗濯した服や、昨日作った調理器具や食器、夕食の残りで作った保存食などが入っている。
「……荷物は俺が持つよ」
ルシアンは、袋を奪い取った。
タリアナは、小さい子供を心配するような視線を向ける。
「あら……大丈夫? 結構重いよ?」
「……心外だな。俺は大人の男だぞ。そんなに力が無さそうに見えるか?」
「そうじゃないんだけど……ううん。ありがとう」
ルシアンは、荷物を自らの肩に担いだ。
ずっしりくる重みは想像以上だったが、持てないほどではない。
タリアナは、魚を捕まえるために使っていたモリを手に持ち、指揮をとるように先導し始めた。
同じような景色が続いているが、その進みには迷いがない。
険しい急坂も、スイスイと登っていく。
重たい荷物を担いだルシアンは、ついて行くだけで精一杯だ。
いつの間にか息は上がり、額には汗が滲んでいる。
「……はぁ…はぁ、タリアナ、道はこっちで本当に合ってるのか?」
「ええ。地形は頭に入ってるから間違いないわ。ルシアン……疲れちゃった? もう少ししたら開けた高原に出るはずなんだけど、先に休憩する?」
「いや……もう少しなら大丈夫……あ!」
その時。
獣道から近づいてくる巨大な影が目に入った。
4メートルを超える紫グマだった。
タリアナも、すぐに気がついたようで、ルシアンに目配せしている。
しかし、凶暴で俊敏な紫グマは、あっという間にルシアンの目の前に現れーーその鋭い爪を振り上げた。




