出会い
「おーい、生きてるー?」
タリアナは倒れこんだ青年の肩を叩いた。
「……う、なんとか……」
「お腹がすいてるんだよね? 丁度、食事の準備ができたところだから、一緒に食べましょ」
青年は、差し出されたスープと焼鮭を、慌てて掻き込んだ。
「うまい……うますぎる……」
タリアナはその必死な様子を眺めながら、優雅に久しぶりの食事を口に運ぶ。
「うん、なかなか美味しいわね。調味料があれば、もっと良かったんだけど、贅沢は言えないか……」
空腹が和らぎ我に返った青年が、タリアナに気づいて目を瞬かせている。
「君は……何者?」
「あなたこそ、誰なのよ。自分から名乗らずに素性を尋ねるなんて、失礼な人ね!」
「あ、すまない。俺の名は……ルシアン。山を越えてヴァロワ王国に行く途中だったんだが、仲間が俺の側からはぐれてしまって……1週間、山中を探し回っていた」
「何人で来ていたの?」
「4人だ」
「……つまり、あなたが遭難したわけね。そんな時は、場所を移動しないのが鉄則でしょうに」
「山から降りれば、すぐ見つけられると思ったんだよ。しかし、どこまで行っても景色が変わらなくて途方にくれていた。1週間、何も食べていなかったから、そろそろ限界だったんだ。君のおかげで本当に命拾いした……感謝する。それで、君は……?」
「わたしは、タリアナ。山を越えて西の国に行くつもりよ」
「西の国……モンテール帝国か? まさか、1人で?」
「ええ、そうよ」
「それはさすがに危険だ。山の深いところには猛獣もいるし、山賊の住処もある。若い女性が野営をしながら1人で山を越えるなんて……何かあったらどうするんだ!」
「ルシアンには言われたくないわ。自分の身は自分で守れるから、心配してもらわなくても結構よ」
ルシアンが言うことは一理あるが、タリアナには行かねばならない理由がある。
「……何故、モンテール帝国へ?」
「実は……わたし逃亡中なの。行き先は、今まで行った場所でなければ、どこでも良かったんだけどね」
タリアナの言葉に、ルシアンが身を乗り出す。
「逃亡中って……誰から? 罪を犯したのか?」
「違うわよ。ヴァロワの王子様から逃げてるの」
「それって……リシャール王子か? それともエドガー王子?」
「両方よ。ルシアンは、あの兄弟を知っているの?」
「……噂で聞いたことがあるぐらいだよ。君と王子の間には何かあったのか?」
「うーん、話せば長くなるし、信じてもらえないかもしれないんだけど……聞いてくれる?」
「ああ」
タリアナは、野生のハーブで作ったお茶を木のコップに注ぐと、ルシアンに手渡した。
そして、自分が百年の眠りについていた古城の姫だったこと、リシャールのキスがきっかけで目覚めたことを説明し始めた。
前世の記憶があること。
4回の巻き戻りを経験したこと。
今までのループで、それぞれ別の王子と結婚したこと。
その全員が、最悪男だったこと。
……気づけば、話すつもりのなかったことまで打ち明けていた。
「……ちょっと話しすぎちゃった。信じられないでしょ?」
「確かに、不思議な話だ。普通なら、妄想だと思うだろうな。だけど、何故かタリアナは嘘をついているようには見えない……」
「わかってくれるのね!」
「君は、過去に4人もの王子と運命的な出会いをして結ばれ、絶望して、時間をさかのぼった。それで……今回は1人で生きるつもりだと?」
「ええ。 1人でも生きていけるように、今までの人生で、雑学も語学も薬学も、農業も狩も武術も、身につけてきたんだもの。……もう誰も好きにならないとは言い切れないけど、少なくとも、王子様は結構だわ!」
「そうか……」
「わたしのことばかり話したけど、ルシアンはどうなの? これから、どうするつもり?」
「ヴァロワ王国に行くつもりだったけど……、今回は諦めるよ」
「そう。一緒に来た仲間が捜索しているかもしれないものね」
「ああ。俺も、モンテール帝国に戻ることにしたから……、もし迷惑でなければ、山を越えるまで同行させてくれないか?」
「……また、遭難すると困るものね。いいわ。一緒に行きましょ。あ……ひとつ確認なんだけど、ルシアンは、王子様ではないわよね?」
「……ああ、もちろん。ただの旅人だよ」
ルシアンは、少し冷めたハーブティーを飲み干した。




