謝罪
「……状況から考えて、フュードがすり替えられた皇子であることは間違いないと思う」
「……マジか」
一通り説明を聞き終えたフュードは、呆然としたまま額に手を当てた。
シューリンたち元山賊の仲間も、信じられないといった様子でルシアンとフュードを見比べている。
「……見た目が似ていたとはいえ、赤ん坊のすり替えに誰も気付けなかった。家族として、本来ならあってはならないことだ。俺は当時5歳だったが、もっと注意していれば違和感に気付けたかもしれない。……長い間、見つけてやれなくて本当にすまなかった」
ルシアンは深く頭を下げた。
フュードは困ったように眉をしかめ、首を横に振る。
「頭を上げてくれ。悪いのは赤ん坊をすり替えて山に捨てた奴だろ。ルシアンに罪はない」
ルシアンは静かに顔を上げる。
「……両親は、お前に直接謝りたいと言っている。そして、許してもらえるなら、一緒に暮らしたいとも」
「皇帝陛下と皇后陛下が? ……一緒に暮らすって、皇居でか?」
ルシアンが頷くと、フュードは苦笑しながら肩をすくめた。
「さすがに恐れ多いって。俺は山賊たちに拾われて、荒っぽく育った人間だ。……でも、今までそれなりに幸せだった。夢だったレストランも持てたしな。だから謝罪は必要ないって伝えてくれ」
「……そう言うと思っていた。だが、一度だけでも会ってくれないか。両親もドルシンも、お前と話をしたがっている」
フュードは少しだけ考え込み、ゆっくりと口を開いた。
「ルシアンも知ってるよな。俺は5回目のループを生きてる」
「ああ」
「最初の人生では、宮廷料理人として皇居で働いていたことがある。その時、皇帝陛下と皇后陛下、それからドルシン殿下にも会った」
フュードは、別の未来を懐かしそうに語る。
「あのループでは、ルシアンが山で命を落としていたから、ドルシン殿下が皇太子として両陛下を支えていた。本当に仲のいい家族に見えたよ」
「……そうか」
「ドルシン殿下は、『兄上が好きだったラザージョを帝国の名物料理にしたい』って話してた。あの優しい人が、俺の代わりに皇子として生きているなら……俺は邪魔をしたくない」
ルシアンは穏やかに微笑む。
「ドルシンに気を遣ってくれているのか。フュードだって優しいじゃないか」
「いや、1番大きな理由は、今さら皇子なんて呼ばれたくないってことだけどな」
フュードは照れ隠しのように笑う。
「それでも、皇居へ話をしに行った方がいいって言うなら、そうだな……タリアナも一緒に行けるなら考えるよ」
「……どうしてそこでタリアナが出てくるんだ?」
ルシアンは思わず苦笑した。
「彼女がいたら心強いだろ。それに……ルシアンにとっても良いきっかけになるんじゃないか? まだ素性を話せていないんだよな?」
「……そうだけど」
「タリアナは、ルシアンのことをもっと知りたいって言ってたぞ」
フュードは真っ直ぐルシアンを見つめて問いかける。
「お前は、タリアナのことをどう思ってる?」
少しの沈黙のあと、ルシアンは迷いのない声で答えた。
「好きだよ……女性として。会えないと寂しいし、できることならずっと一緒にいたい。でも……皇太子だと知られたら、タリアナは離れていくかもしれない。自分の気持ちを伝えて困らせるのも嫌なんだ……」
フュードは呆れたように息をつく。
「本気でそう思ってるのか?」
「……?」
「わかってないな。タリアナを狙ってる男は山ほどいるんだぞ」
「……やっぱり、お前も?」
「ああ」
フュードはあっさり頷いた。
「俺は、1週間前に求婚した。そして振られた」
ルシアンは目を丸くする。
「……そうだったのか」
「『気になる人がいるから、一緒にはなれない』って言われてな。……タリアナは片思いだと思ってるみたいだけど、どう見ても両思いだろ……」
フュードは小さくため息をつき、真面目な表情になる。
「ルシアン。嘘はつかずに、ちゃんと全部話せ。気持ちも素性もだ。誰かに奪われてから後悔するぞ」
いつしか話題は、フュードの出生の話から恋の話へと移っていた。
その時だった。
店の扉が勢いよく開き、明るい声が店内に響く。
「ただいまー!」
1か月ぶりに聞くその声に、ルシアンは反射的に振り返った。




