発見
ルシアンが、公務の合間を縫ってタリアナを探し続けるようになって、早1か月が経った。
気づけば、タリアナは帝都の有名人になっていた。
強盗団をたった一人で壊滅させた噂に加え、困っている人を放っておけない彼女が、行く先々で人助けを繰り返していた結果である。
その評判は、いつしか誰かが呼び始めた『最強天使』という異名と共に、帝都の外にまで広まり始めていた。
情報を聞きつけて駆けつけては、あと一歩のところですれ違うこと数十回。
最初の頃は、ため息ばかりついていた。
タリアナは、自分に会いたくなくて逃げているのかもしれない――そんな弱気な考えが頭をよぎることもあった。
どこかで元気に過ごしているなら、それでいいじゃないか。
そう思おうとしても、会いたい気持ちは募るばかり。
しかし、この日。
ついに捜索に光が見えた。
「あっ!!」
「え、どうしました?」
「ついにタリアナさんを見つけたんですか?」
この1か月、捜索を手伝ってくれているホーンズとトニーが、ルシアンの声に反応する。
「いや、タリアナを見つけたわけじゃない。だが……探していた場所が見つかった」
ルシアンの視線の先には、市場通りの一角に建つレストラン『アジト』の看板があった。
昨日まではなかったはずだから、今朝、取り付けられたのだろう。
扉には『1週間後オープン予定』と書かれた貼り紙もある。
「ここって、以前おっしゃっていた山賊の……すり替えられた皇子殿下の……レストランですか?」
トニーに尋ねられ、ルシアンは小さく頷いた。
ドルシンが生誕の儀ですり替えられていた事実を知る者は、今もごく一部だけだ。
ドルシンはこれまで通り皇帝の息子として暮らしているし、両親も、あの日以来この件について口にすることはない。
それでも複雑な思いを抱えているのは間違いなく、時折、家族の間には気まずい空気が流れている。
ルシアンは、フュードに再会したら真実を伝え、家族と会わせようと考えていた。
本人と直接話ができれば、少しは心の整理がつくかもしれない。
「呼び鈴を鳴らしますか?」
ホーンズが扉の横についたベルを指差す。
「うん、そうだな」
ルシアンは2人に外で待つように伝え、呼び鈴を鳴らした。
やがて扉が内側から開く。
「え? もしかして……ルシアン様!?」
声を上げたのはシューリンだった。
その声を聞きつけ、アキムとハルクも顔をのぞかせる。
「おお! ルシアンじゃねぇか。会いに来てくれたのか?」
「ルシアンさん。また会えて嬉しいっす」
「ああ。俺も嬉しいよ。それで――」
フュードに話がある、と続けようとしたルシアンを、シューリンが遮った。
「ルシアン様は、タリアナを探しているんでしょ? さっきまでいたんだけど、今はツユたちと一緒に買い物に行ってるのよ」
「え……ここで待ってたら会えるってこと?」
不意を突かれたルシアンは、目を丸くして身を乗り出した。
「ふふっ、そうね。さっき出たばかりだから、1時間くらいはかかると思うけど、中で待っていたらいいわ」
シューリンに案内され、ルシアンは店内へ入る。
店内はアンティーク調の落ち着いた雰囲気で、想像していた以上に広々としていた。
「お客様、こちらのお席へどうぞ」
接客の練習だろうか。
ハルクが丁寧に椅子を引く。
ルシアンは腰を下ろし、店内を見渡した。
「フュードはどこにいる? 実は大事な話があって……」
「ボスなら厨房で料理の試作中だ。呼んでくるから少し待ってな!」
アキムがグラスの水をテーブルに置いた。
「アキム、グラスはもっと優しく置かなきゃだめでしょ。まったくもう」
シューリンはこぼれた水を布で拭きながら、ルシアンの向かいに腰を下ろす。
「タリアナじゃなくて、ボスに用事だったの? 意外だわ」
「うん、色々あってね。もちろん、タリアナにも会いたかったんだけど……彼女は今、ここに住んでいるのか?」
「住んでいるのはここじゃないけど、私たちが山を下りた2週間前から、毎日開店準備を手伝いに来てくれているの」
「2週間も前からいたのか?」
「ええ。タリアナも、ずっとルシアン様に会いたがってたんだよ。……まあ、詳しい話は本人から聞くといいわ。あ、ボスが来たみたいね」
シューリンが席を立ち、入れ替わるようにフュードが腰を下ろした。
「俺のレストランへようこそ、ルシアン。……いや、皇太子殿下と呼んだ方がいいのかな?」
「ルシアンのままで構わない」
「そうか。それで、話っていうのは何だ? 調理の途中で抜けてきたから、手短に頼む」
「うん。話というのは、フュードの出生についてだ」
ルシアンは一拍置き、真っ直ぐフュードを見つめた。
「……単刀直入に言う。お前は、俺の本当の弟だ」
「は……?」
フュードは目を瞬かせる。
「手短すぎて意味がわからないな。どういうことか、ちゃんと説明してくれ」
ルシアンは、困惑するフュードに向かって、これまでの経緯を一つずつ説明し始めた。




