人助け
お忍びでタリアナを探していたルシアンたちは、街の警備に当たっている若い騎士に声をかけた。
「あ、ホーンズさんとトニーさん、お疲れっす。……ん? 一緒にいるのは……ルシアン殿下じゃないっすか! 昨日戻って来たんでしょ? 相変わらず、お忍びが上手っすねぇ」
「おい、シリル。殿下に向かってその言い草は何なんだ。大体お前は――」
トニーが呆れて説教を始めようとするが、ルシアンは軽く手を上げて、それを制した。
「別に気にしていない。それよりシリル……俺たちは今、個人的に世話になった人物を探している。俺の肩くらいの身長で、ブロンド髪と深緑色の大きな瞳を持つ16歳の少女なんだが、見かけなかったか? かなり可愛くて魅力的だから、目を引くと思うんだが……」
あまりにも主観が入った説明に、ホーンズとトニーが、顔を見合わせてプッと吹き出す。
シリルは少し考え込んだあと、ぽんと手を叩いた。
「ああ! もしかして、昨晩、強盗団をたった一人で壊滅させて人質を助けたっていう、強すぎる美少女のことっすか?」
「……何だって?」
「あ、まだ殿下の所まで報告が上がって来てませんでした? ホーンズさんたちも今日は詰所に寄ってないみたいっすね。昨日その場にいた騎士たちが興奮して話してたんで、今その話題で持ちきりなんすよ」
シリルは、「さすがに多少は誇張されてると思いますけど」と前置きしてから、昨夜聞いた出来事を詳しく話し始めた。
「……それは間違いなく、俺が探しているタリアナだよ」
ルシアンの口元に、自然と笑みが浮かんだ。
「騎士団にスカウトしたけど、その場で断られたみたいっす。まだ諦めてないらしいっすけどね。そのあと彼女がどこへ行ったかは……事件のあった商家の老夫婦なら知ってるんじゃないっすか?」
「……そうか。行ってみる」
ルシアンたちは足早に商家へ向かった。
事情を話すと、老夫婦はすぐに笑顔で頷いた。
「ああ、タリアナちゃんなら20分ほど前までここにおったんじゃよ」
「タリアナちゃんが天涯孤独だと聞いて心配していたけど……大切にしてくれる恋人がいたんだね。少し安心したわ」
「……いや、俺は恋人では……」
「婚約者かい? それなら、ちゃんと見ていてあげるんだよ。タリアナちゃんは強くて賢い子だけど、無鉄砲で危なっかしいところがあるからねぇ」
「……それは、わかっています。だから、彼女がどこへ向かったのか教えていただけませんか?」
「ああ……タリアナちゃんは、住み込みで働ける仕事を探しに、職業紹介所へ行くと言っておったよ。見つからなかったら戻ってくる約束をしたんじゃが……きっとタリアナちゃんなら仕事くらいすぐに見つけてしまうんじゃろうな」
「そうね。でも、また会いに来るって言ってくれたでしょう? 次に来る時は、もっと美味しいものをたくさん作ってあげたいわ……」
命を救われた老夫婦は、すっかりタリアナの虜になっているようだ。
ルシアンは、「泊めてくれる人ぐらいいる」と楽観的に話していたタリアナを思い出して、肩をすくめた。
職業紹介所の職員も、彼女のことをよく覚えていた。
「ああ、タリアナさんなら十分ほど前までここにいたよ。さっき求職者同士で揉め事があってね。仲裁に入ってくれたのが彼女だったんだ」
職員は苦笑しながら続ける。
「仕事が決まらなくて苛立っていた女性が、転職を繰り返している青年に文句を言い出してね。お互い言い合いになっていたんだけど、タリアナさんが少し話しただけで、二人とも前向きな顔で帰っていったんだ」
「それで、彼女は?」
「希望に合う求人がなかったから、直接探してみるって。商店街のどこかにいるんじゃないかな」
「……はあ」
結局ルシアンたちは、最初にいた大通りへ戻り、聞き込みを始めた。
そして、目撃者が想像以上に多いことに驚いた。
「ああ、その人なら知ってます! 荷物を運ぶのを手伝ってくれたんです」
少年が元気よく答える。
「馬車の車輪が外れて困っていたら、彼女が一緒に直してくれたんだよ」
御者も嬉しそうに話す。
「泣いていた息子をあやしてくれたお嬢様のことね」
幼い子どもを抱いた女性も微笑んだ。
さらに、派手な服装の青年は目を輝かせる。
「あの子、タリアナって名前なんだ? 本当に可愛かったなぁ……」
ルシアンは頬を引きつらせながら尋ねた。
「いつ、どこで会った?」
「ついさっき、噴水広場で会った。ナンパしたんだけど、軽くあしらわれちゃった」
ルシアンたちはすぐに噴水広場へ向かった。
しかし、そこにタリアナの姿はない。
「タリアナ……ここにもいないのか」
辺りを見回すルシアンに、噴水の掃除をしていた女性が声をかけた。
「あら? もしかして、タリアナちゃんを探しているの?」
「ご存じなんですか?」
「ええ。さっきまで掃除を手伝ってくれていたの。でも、ほんの少し前に、迷子の女の子を見つけて親御さんのところまで送りに行ったわ」
ルシアンは空を見上げ、小さく息を吐いた。
「また、あと少しだったか……」
「見つかりそうで見つからない。なかなか手強いですね」
トニーが呟くと、ホーンズも両手を挙げた。
「こんな短時間で、困っている人を助けすぎでしょう!?」
ルシアンはクスリと笑う。
「そうだな。それでこそタリアナだ」
そうして、3人は再び歩き出した。




