強盗団
南門近くに到着したタリアナは、野次馬や騎士たちの会話を聞きながら状況を整理した。
犯人は5人組。1階には2人。2階には、老夫婦と3人の犯人がいる。
そのうち1人は銃を持っている。
騎士団は、数時間前から交渉を試みているが、犯人が老夫婦に銃を突きつけて、一歩でも動けば殺すと脅しているため、突入に踏み出せないでいる。
商家の正門にはロープが張られ、一般人が近づけないよう騎士たちが警戒している。
タリアナは、隙を見てロープを潜って入り込む。
それから、庭に植えられた木を足場にすると、軽く跳躍して2階の窓へ飛び移った。
音を立てずに室内へ滑り込む。
そこには、目出し帽を被った犯人が3人。
その足元には怯えた老夫婦が寄り添うように座っていた。
タリアナは迷わず、銃を突きつけている男の背後へ回る。
次の瞬間。
銃を持つ手は捻りあげられ、強烈な蹴りが男の背中に叩き込まれた。
男は部屋の入口近くまで吹き飛び、そのまま動かなくなった。
床に落ちた銃を、タリアナは足を使って器用に拾い上げた。
「……!」
残った2人の犯人が、ナイフを手に襲いかかってくる。
しかし、タリアナは軽く身をかわし、それぞれのナイフを取り上げた。
そして、2人の腕を掴むと、窓の外の植え込みに向かって放り投げた。
老夫婦は、突然現れた少女の規格外の強さに、ただ呆然と目を見開いていた。
タリアナはその様子に気づき、慌てて声をかける。
「ごめんなさい。急に入ってきて、びっくりしましたよね! お怪我はありませんか?」
「う、うん。でも、犯人が……」
「ああ、窓の外に投げた人たちなら心配いりませんよ。植え込みの上に落ちるように加減したので、騎士の皆さんが捕まえてくれると思います」
その言葉を証明するように、窓の外から声が響いた。
「犯人だ! 逃げるぞ。拘束しろ!」
しかし、老紳士は慌てて首を横に振った。
「いや、そうじゃなくて……。犯人はまだ下に2人いるんじゃ……」
その直後。
1階で金目の物を探していた残りの2人が、階段を駆け上がってきた。
「おい、何があった!?」
「嘘だろ……」
部屋の入口近くで気絶している仲間を見つけ、2人は絶句した。
そして、人質を守るように立つ少女へ視線を向ける。
その手には、見覚えのある銃とナイフが握られている。
2人も目出し帽を被っているため表情は見えないが、唖然としていることだけは伝わってくる。
「お前は……何者だ?」
タリアナは少し考えて答える。
「うーん……ただの、おせっかいな通りすがりだよ」
「まさか、こいつをやったのはお前なのか?」
「まあ、そうだね。ちなみに、あとの2人は外に投げ飛ばしちゃった」
「はあ? そんなの……はったりだ」
2人はナイフを構え、タリアナへ近づいてくる。
「まったく。人にナイフを向けるなんて失礼な人たちね!」
タリアナは手に持っていた2本のナイフを、2人の手元に向かって勢いよく放った。
2本共、寸分違わず彼らのナイフの柄へ当たり、それを弾き飛ばした。
その瞬間、タリアナは素早く腰を落とし、2人を両肩に担ぎ上げた。
ずる賢く屈強な男たちは、今まで、怖いもの知らずだった。
しかし今、自分たちより身体の小さな美少女に、軽々と担がれている。
武器も、易々と奪われてしまった。
仲間3人が制圧された話が、急に真実味を帯びてくる。
「え? 持ち上げられてる?」
「おいおい、嘘だろ……こんな小娘に」
彼らが状況を理解するより先に、タリアナは窓へ向かって歩き出した。
「わ、わぁぁ! 化け物かよ!」
「やめろ!てめぇ、何をする気だ!」
2人は抵抗して足をジタバタさせているが、タリアナは更に腕に力を込め、窓の外に落とそうとしている。
「別に、ここから落ちても怪我をするくらいだよ。あなたたちは悪いことをしたんだから、騎士の皆さんに引き渡さないと」
少女の余裕な声に、犯人たちは完全に心が折れた。
そして、態度を変えた。
「ま、待て。降参する」
「逃げねぇから、降ろしてくれ」
「ふーん。それじゃあ、窓の外に投げてあげるね」
なおも、落とされそうになった犯人たちの顔が青ざめる。
「じ、自分で歩いて行く!」
「ちゃんと騎士に投降するから!」
「ほんとに? 約束だからね」
タリアナが手を離すと、犯人たちは自ら目出し帽を外した。
そして、気絶している仲間を担ぎながら階段へ向かう。
しばらくすると、窓の外に、騎士たちに拘束される犯人たちの姿が見えた。
ほぼ同時に、数人の騎士が部屋へ入ってきた。
「大丈夫ですか!?」
老夫婦しかいないはずの部屋に、銃を握った1人の少女が立っている。
騎士たちは一瞬警戒を見せる。
「あ、違う! わたしは犯人じゃないわ!」
タリアナは慌てて銃を騎士へ手渡した。
騎士たちは顔を見合わせる。
「強盗犯たちが、『化け物級に強い女が侵入してきて暴力を振るわれた』と証言していたんだが……まさか、君のことか?」
「えっと……」
タリアナが困ったように黙りこむと、老夫婦が慌てて前へ出た。
「この子は、わしたちを助けてくれたんじゃよ」
「そうよ。この子が来なければ、私たちは無事じゃいられなかったかもしれない……」
その後、タリアナは名前や素性を尋ねられ、老夫婦と共に事情を詳しく聞かれた。
もちろん、話すたびに驚愕されたが……。
勝手に助けに入り、危険な行動をとったことについては、騎士たちから厳しく注意を受けた。
とは言え、長く捕まえられずにいた強盗団の逮捕に協力したことについては、率直に感謝された。
そして最後には、思いがけない誘いを受けた。
「タリアナさん。その実力を寝かせておくのは惜しい。次の入団試験を受けてみないか?」
「君みたいな強くて美しい女性が入団してくれたら、騎士たちの士気も上がるよ」
「え、わたしが騎士に?」
タリアナは少し考えて、ニコリと笑った。
「うーん……楽しそうだけど、他にもやりたいことがあるから、辞めておくわ」
騎士たちは、残念そうな顔をしながら去っていった。
その後、タリアナが家も所持金もないことを知った老夫婦は、泊まっていくよう勧めてくれた。
温かい食事を用意してくれて、柔らかいベッドを貸してくれた。
ーーそして今。
タリアナは、お世話になった老夫婦に別れを告げている。
「マットさん、ウメリさん。本当にありがとうございました。そろそろ行きますね」
「ああ。住む場所が見つからなかったら、必ず戻ってくるんじゃよ」
「いつでも遊びにおいで」
「うん! また来ます」
タリアナは大きく手を振りながら、大通りへ向かって歩き出した。




