どこへ
久しぶりに住み慣れた部屋で眠ったルシアンは、翌朝、窓から差し込む柔らかな光と共にすっきりとした気持ちで目が覚めた。
朝食後、溜まっていた執務を猛スピードで片付けると、街の視察という名目で外に飛び出した。
護衛としてホーンズとトニーが付き添っているが、今日は2人とも剣を持たず、騎士服も着ていない。
それは、ルシアンがお忍びで街を歩く時の暗黙の了解だった。
「いつものことながら、ルシアン殿下だと気が付く者が誰もいないなんて不思議ですよね」
「普段、公の場では前髪を上げているし、服装も今とは全然違うからな。それにしても、タリアナは一体どこへ行ったんだ……」
ーー
その頃タリアナは、昨晩お世話になった商家から出て行くところだった。
「マットさん、ウメリさん。色々とありがとうございました。お土産まで……」
売物の衣服や日用品を気前良く持たせてくれた老夫婦に、タリアナは頭を下げる。
「こんなことぐらい、大したことないよ。タリアナちゃんは、わしたちの命の恩人なんじゃから」
「そうだよ。タリアナちゃんがおらんかったら、私たちは今頃どうなっていたか……」
「それは、さすがに言い過ぎだよ……」
タリアナは、苦笑いを浮かべながら昨夜のことを思い浮かべる。
ーー
ルシアンが、仲間を見つけて人混みの向こうへ消えていった後。
タリアナは、賑わう大通りを眺めながら小さく伸びをした。
「ルシアンが無事に仲間に会えて、ほっとしたわ。さて……これからどうしようかな」
行き先も、仕事も、住む場所もまだ決まっていない。
だけど、不安はなかった。
自分の選んだ道を、自由に歩いていけるのだから。
仕事帰りの女性が目の前を足早に通り過ぎる。
外食に訪れた家族連れは、楽しそうな笑い声を響かせている。
大きな買い物袋を抱えた観光客からは、さまざまな国の言葉が聞こえてくる。
その時だった。
近くを歩く男性たちの会話が、ふと耳に入る。
「聞いたか? またあの強盗団が出たみたいだぞ」
「最近街を荒らしているやつらか?」
タリアナは思わず振り返り、聞き耳を立てた。
「今回は帝都の外れにある商家が襲われた。老夫婦を人質にして立てこもっているらしい」
「うわ……怖いな。前回は宝石店の主人が斬りつけられたんだよね」
「ああ。騎士団も現場に向かったみたいだけど、あいつら相手じゃ簡単には動けないだろうな……」
「ねえねえ、その現場ってどこにあるの?」
「……え?」
突然、美少女に話しかけられた男性たちは、目を丸くした。
「人質を取られているなら、放っておけないもの。現場はどこ?」
「南門の近くだけど、危険だから今は近づかない方が……」
「ありがと!」
「き、君!?まさか行く気じゃないよな?」
タリアナは、話を聞くや否や走り出していた。
男性たちは呆気に取られたまま、その背中を見送る。
人混みを器用にすり抜けながら、タリアナはふとルシアンのことを思い出した。
「声をかけてから行った方がよかったかな」
しかし、すぐに小さく首を振った。
「帝都にいるんだもの。また会えるよね」
そう呟くと、タリアナは前を向き、現場へ向かって駆け出した。




