息子
「山賊に育てられた少年が、リリアンの産んだ息子? 証拠はあるのか?」
ルシードが複雑そうに眉をひそめる。
「確実な証拠はありません。しかし、ミューラの証言と時期や場所が一致しています。状況を考えれば、間違いないと俺は思います」
ルシアンはドルシンの顔をちらりと見てから、静かに続けた。
「それに……今は顔つきも体格も違いますが、フュードとドルシンは髪色も瞳の色もよく似ていました。赤子の頃なら、入れ替えられても誰も気付かなかっただろうと納得できるほどに」
リリアンは目を見開き、身を乗り出す。
「……ねえ、もっと詳しく聞かせて。ルシアンは、その子とどうやって知り合ったの? 何を話したの?」
「実は――」
ルシアンは少しためらいながらも、フュードとの出会いを語り始めた。
休憩中に山賊に襲われ、タリアナと共に返り討ちにして拘束したこと。
その直後、頭領のフュードが大きな紫グマを抱えて現れたこと。
詫びとして住処へ招かれ、料理や酒でもてなされ、一晩世話になったこと――。
話を聞き終えたリリアンは、驚いたように目を丸くした。
「……ルシアンがお人好しなのは知っていたけれど、山賊だとわかっていて誘いに乗るなんて……。怖くなかったの?」
「怖くはありませんでした。でも、もちろん警戒はしていました。最初は断るつもりだったんです。ただ、タリアナが行きたいと言うので……」
「タリアナさんは、遭難したあなたを助けてくれた女性だったわよね。さっきは気になることが多くて聞き流してしまったけれど、その方は一人で登山をしていたの?」
「はい。ヴァロアの登山口から帝国側へ向かっていました。煙と美味しそうな匂いに誘われて近づいた時には、一人で焚き火をしていたんです。自分で食料を調達して、枝や葉を集めて小屋まで作り、サバイバル生活を楽しんでいました」
「ずいぶん野性的な方なのね。山賊も怖がらないなんて、とても強い女性だわ」
「まあ……大男を投げ飛ばしたり、紫グマを気絶させたりするくらいには強いです」
「まあ……」
リリアンは猛獣のようなたくましい女性を想像し、思わず苦笑した。
「一度、お会いしてみたいわ」
「ルシアン。その娘はお前の命の恩人だ。一度きちんと礼を言いたい。居場所はわかっているのだろう?」
「あー……そのうち連れてきます。それより、今はフュードの話ですよね」
「ああ。彼はどんな生活を送っていた?」
「フュードは6人の仲間たちと暮らしていました。山賊と名乗ってはいましたが、実際は人を傷つけられないような気のいい人たちばかりでした。一年前までは30人以上の山賊がいたそうですが、解散を宣言したそうです。今は残った仲間たちと一緒に、帝都でレストランを開く準備を進めています」
「レストランだって?」
「ラザージョを看板料理にした店らしいです。フュードの作る料理は、本当に絶品なんです」
話をじっと聞いていたドルシンは、胸を撫で下ろした。
「本物のドルシンは……いえ、フュードは、一人ぼっちではなかったんですね。それに料理人として帝都で暮らし始める……。なんだか少しホッとしました。しかもラザージョは、兄上の大好物じゃないですか」
「そうなんだ。知る人ぞ知る料理のはずなのに、彼も大好物だったらしい」
「不思議ですね。やっぱり、本当の兄弟だからでしょうか」
ルシアンは、静かにルシードへ視線を向けた。
「……俺は、ドルシンが嫌がるなら、フュードに真実を伝える必要はないと思っています。父上はどうお考えですか?」
ルシードは腕を組み、ゆっくりと口を開く。
「正直に言えば、真実を伝えて側にいてほしいという気持ちはある。もちろん、ここにいるドルシンが許してくれるなら、の話だが」
「許すだなんて……。僕に反対する権利なんてありません。それに……僕は、彼に会ってみたいです」
ドルシンは何度も首を振る。
「うん、そうか」
ルシアンが穏やかに頷いた。
ルシードは、妻に問いかける。
「リリアンは、どうしたい?」
「私は、一度話してみたいわ。正直にすべてを話して、今まで気付いてあげられなかったことを謝りたい。そして……もし望んでくれるなら、3人目の息子として迎えたいの。でも、無理強いはしたくない。元気に生きていてくれるなら、それだけで十分よ」
リリアンは優しく微笑んだ。
「……そうだな」
「レストランができたら会いに行きましょう。……さあ、みんなお腹が空いたでしょう? 遅くなったけれど、食事にしましょう」
そう言って扉へ向かうリリアンの後を、ルシードとドルシンが続く。
2人の足取りは、先ほどよりも軽く見える。
今日はもう、タリアナを探しに行くのは難しいだろう。
明日になったら探してみよう――。
そんなことを考えながら、ルシアンも家族の後を追った。




