問い詰め
「申し訳ありません。ルシアン殿下と山ではぐれた後、私は混乱していたんです。報告したものと思っていました……」
ツキームが目を泳がせながら言い訳をする。
「本当は?」
ルシードが低い声で問いかける。
「……いや、報告しなかったのは、わざとで……いや、私の一存で……」
「はぁ。一体、誰に頼まれたの?」
リリアンが冷たい声で問い詰める。
ツキームは、部屋の隅に立つ旧知の仲のウッドに助けを求めるような視線を向けたが、ウッドは首を横に振った。
しばらく、沈黙が続いた。
やがて、我慢できなくなったツキームが、真実を語り始めた。
「すぐに戻って来られると思っていたんです。あの山が、猛獣や山賊が出る危険な場所だなんて、知らなかったんです。ただ、殿下に試練を与えてほしいと頼まれて……」
「そいつが首謀者か。お前はその悪人に騙されて、ルシアンを危険な目に合わせたんだな」
「か、彼女は悪人なんかじゃない!」
ツキームの大きな声に、ドルシンの肩がピクリと揺れた。
「彼女?」
その言葉に反応したのは、騎士のウッドだった。
「まさか、お前がずっと想いを寄せていたミューラのことか?」
ツキームは、静かに頷いた。
「待って。ミューラって、私の侍女のミューラよね?」
リリアンが困惑する。
「そうです。ミューラは、ルシアン殿下は甘やかされて育った世間知らずで、このままでは立派な皇帝にはなれないから、あなたが試練を与えてほしいと言ったんです。初めての彼女からのお願いでした。どうすれば良いか聞いたら、ヴァロアの山で一人きりにして、誰も助けてくれない状況を作り出すのはどうかと提案されました。そして、頼みを聞いてくれたら……私のものになってくれると……」
「何よそれ。自分の色欲のために言いなりになったと言うの? おかしいじゃない。本当に試練を与えたいだけなら、数日で充分だったでしょう? 隠れて様子を伺うだけでも良かったはず。2週間も山で放置されたら、飢え死にする可能性もあったし、猛獣に殺される可能性もあったのよ?」
「そこまで頭が回らなかったんだ。ミューラのことで頭がいっぱいだったから」
罪を犯したことを悟りながらも悪びれないツキームは、明らかに、ルシアンのよく知る執事ではなかった。
ルシアンは、問いかける。
「なあ、ツキーム。もしかして、ヴァロアで帝国の偽紙幣が作られているという情報も、嘘だったのか?」
「はい、そうですよ。そのぐらいの嘘は、目的のためには必要だとミューラが言ったんです」
重い空気が流れ、黙って話を聞いていた皇帝ルシードが口を開いた。
「ツキーム。お前は、今日付けで解雇する。加えて、この件は国家への重大な背任として捜査させる。長年信頼していた執事だったのに、大変残念だ」
ルシードが手を2回叩くと、十名ほどの捜査員が一斉に応接室に入ってきた。そして瞬く間にツキームを拘束して、静かに出て行った。
全員が、扉をしばらく眺めていた。
「次は、ミューラの番ね。ウッド、あいつは部屋で休んでいるはずだから、今すぐ連れて来て!」
リリアンが、珍しく品のない言い方でウッドに命令する。
「承知しました!!」
ウッドは、いつもよりもはっきりと返事をすると、慌てて部屋を飛び出した。




