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疑い

ルシアンは、応接室のソファに腰掛けてベテラン騎士のウッドに話しかけた。


「なあ、ウッド。正直に答えてくれ。俺は、誰かから殺したいほど憎まれていると思うか?」


「……想像もつきません。ルシアン殿下はいつも優しくて、下の者にすら丁寧に接してくださる。身分も頭脳も容姿も全てを持ち合わせた殿下を、羨ましく思うものはいても、敵を作るタイプではありませんよ」


「しかし、俺が山で遭難したことを捜索隊に伝えなかったツキームは、少なくとも、良くは思っていなかったことになるよな」


「実は、ツキームとは皇居に勤め始めた時期が一緒で、お互い独り身なのもあって、時々2人で飲みに行っているんです。彼は、長年片思いをしている女性がいるのに、食事に誘うこともできない小心者ですよ。誰かに命令でもされない限り、そんな大それたことをしでかす人間だとは思えません。黒幕は別にいるのでは?」


「うん、俺もそう思う。ウッドは誰が怪しいと考える?」


「外から見れば、真っ先に疑われるのはドルシン殿下でしょう。いくら無能な皇子と呼ばれていても、ルシアン殿下がいなければ、次期皇帝になるのはドルシン殿下ですから」


「いや、違うよ。そもそも、ドルシンは無能なんかじゃない。本来は優秀で真面目なやつなんだ。軽薄な話し方も、簡単な質問すら答えられないような無能さも、明らかに演技だ」


「そうだったんですか? 一体何故?」


「第二皇子だった父上が皇位を継いだ時、『優秀な弟が無能な兄を追い出して奪い取った』と噂になっていたのを知っているだろう? ……2人でいた時にたまたま噂話を聞いてしまったんだ。ドルシンが演技をするようになったのはそれからだ。俺を不安にさせないための、あいつなりの優しさだったんだと思う」


「……ルシアン殿下は、すごく、弟君を愛していらっしゃるんですね」


「当たり前だろ」


迷いのない返事を聞き、ウッドは穏やかな笑みを浮かべた。


「ご心配の真実については、ツキームを問い詰めれば明らかになるでしょう」


ーートントン

軽いノックと共に扉が開く。

入ってきたのは、皇帝と皇后、執事のツキーム、そして、第二皇子のドルシンだった。


「兄上! 無事に戻られて本当に良かったぁ……」


入ってくるなりルシアンに飛びつき、子供のようにわんわん泣き出したドルシンを、ルシアンは優しく抱き寄せた。


「心配かけて悪かった」


「兄上は何も悪くありません。悪いのは……」

ドルシンは何かを言い淀む。


「ルシアン、ドルシン。2人共、再会の喜びは後で分かち合ってくれ。今は、ツキームを問い詰めるのが先だ」

ルシードが咳払いをした。


「とりあえず、座りましょうか」

リリアンが全員をソファに座らせる。


ツキームは、厳しい視線を浴びて、おずおずと口を開いた。


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