帰宅
皇居に着いた頃には、空はすっかり闇に包まれていた。
窓には無数の灯りがともり、侍女や文官たちが慌ただしく行き交うのが見える。
正門をくぐったルシアンの姿を見つけた衛兵が、大声を張り上げた。
「皇太子殿下がお戻りになりました!」
その声は響き渡り、あっという間に広がっていく。
「殿下が……!」
「ご無事だったのですね!」
驚きと安堵の声があちこちから上がる中、ルシアンは騎士たちを伴って回廊を進み始めた。
だが、その足取りは決して軽くない。
タリアナがいなくなった寂しさもある。
それから何より、自分を山へ追いやった者が皇居の中にいるかもしれないという疑念が、胸の奥で重く渦巻いていた。
ーーまずは父上に事情を話そう。……そして、ツキームに真実を聞かなければ。
その時だった。
「ルシアン!」
聞き慣れた声とともに、一人の女性が回廊の向こうから近づいてくる。
ドレスの裾を乱して走ってきたのは、皇后リリアンだった。
「母上」
「無事だったのね……」
「はい。ただいま戻りました」
リリアンはほっと息をつき、次の瞬間、ルシアンを強く抱きしめた。
「ああ、無事に戻ってきてくれて本当に良かった……」
そこに、少し遅れて皇帝ルシードが顔を見せた。
「ルシアン、帰ってきたのか。一体、今までどこにいたんだ?」
ルシードの口調は厳しいが、目には涙が浮かんでいる。
「心配おかけしました。実は……」
ルシアンは、今に至る経緯を順を追って話した。
ヴァロア王国を内密に視察するために山に入ったこと。
執事のツキームと騎士のウルトとソラマンが同行していたこと。
遭難して死にかけていたところを、ヴァロア出身のタリアナという女性が救ってくれたこと。
街で騎士のウッドたちに会って、偶然はぐれただけだと思っていた同行者たちが、真実を話していないことを知ったこと。
「自ら失踪したわけでは無かったということか?」
ルシードが愕然としている。
リリアンがルシードの隣に立ち肩に触れる。
「私は最初から言っていたでしょう?ルシアンは、あなたの兄上のように黙って失踪したりしないって」
「しかし……事前に一言伝えてくれても良かったんじゃないか?」
「父上に、伝えに行こうとしました。しかし、ツキームが、陛下は会議の準備で忙しくなるから先に伝えておいたと……。ちゃんと自分で確認すべきでした」
「は? ツキームは何故嘘をついた? ルシアンが遭難したことを何故伝えなかった? 故意に置き去りにしたと言うのか?」
「あなた……、ルシアンを攻めても仕方ないでしょう? ツキームからちゃんと話を聞くべきだわ」
憤るルシードをリリアンが宥める。
「そうだな。ツキームは今どこにいる?」
「ツキームさんなら、ドルシン殿下のお部屋にいらっしゃいましたよ。呼んできましょうか?」
清掃担当の使用人が、片手を挙げる。
「いや、私が直接行こう」
「私も一緒にいくわ。ルシアンは、応接室で待ってて」
ルシードとリリアンは、寄り添うように回廊の奥へ歩いて行った。




