誘拐
タリアナは漁村を離れ、山を歩いて西の国に行くことを決意した。
前回は南の小国、前々回は東の隣国に向かったから、まったくの別ルートだ。
「目立たない服と食料を手に入れたいけど……あまりゆっくりはできないのよね」
ここに留まれば、現在古城周辺を捜索中のリシャールに、見つかってしまうかもしれない。
「まあ、いっか。歩きながら考えましょ!」
漁村を進んでいると、以前のループで逃亡を手伝ってくれた気のいい村人たちと次々にすれ違った。懐かしくなったタリアナは、思わず声をかける。
「こんにちは、アイラさん!」
「あ……こんにちは……」
「船乗りのイヴァンさんじゃない!今から仕事?」
「そうだけど……えっと……」
「腰の調子はいかが? 御者のウッドさん!」
「ああ、今日は悪くないが……どこかで……」
名前を呼ばれた村人たちは、揃って首を傾げていたが、タリアナは笑顔で駆け抜けて行った。
「はぁ……ここまで来れば大丈夫かな」
しばらくして、山の麓にたどり着いたタリアナは、息を切らしながら、追っ手が来ないことを確かめていた。
リシャールに見つかれば、王宮に連れて行かれる。
それだけは、絶対に嫌だ。
ーー1回目の人生では喜んでついて行った。
彼が既婚者だったことは、王宮に着いてから知った。
タリアナは、嫉妬した妃に何度も殺されかけた。
階段から突き落とされそうになったり、
食事に毒を盛られたり、
火あぶりにされたり……
それを知ったリシャールは、妃を処刑し、その日のうちにタリアナを正妻として迎え入れた。
しかし、彼はどこまでいっても浮気男だった。
周りには、王子の欲望を満足させるための愛人たちがはびこっていて、夫婦の寝室にも毎日入り浸っていた。
「思い出すだけで気持ち悪いわ!」
時間が巻き戻ったのは、それから3年が過ぎた頃だった。
2回目の目覚めの時、タリアナはプロポーズを丁重にお断りした。
「なんて謙虚なんだ!」
「わたしは、浮気をする人は無理なので」
「君はヤキモチ焼きなのか。可愛いな!嫌なら妻たちとは別れてやる」
「いや、お妃様を大切にしてください」
「なんて優しいんだ! やはり君こそ私の理想だ」
話が通じないリシャールは、強引にタリアナを馬車に押し込んだ。
いわゆる誘拐である。
タリアナは、王宮で馬車が止まった瞬間、逃げ出した。
案の定、リシャールは追いかけてきたが、その時匿ってくれたのが第二王子エドガーだった。
エドガーは、穏やかな青年だった。
しばらくして、タリアナに求婚してきた。
「僕なら浮気なんかしない。君だけを大切にするから、結婚しよう」
一途で優しいエドガーに惹かれていた、あの時のタリアナは、喜んで頷いた。
彼は、宣言どおり浮気をしなかったし、毎日愛を囁いてくれた。
ただ……究極のヤンデレ男だった。
異常な執着心と独占欲で、タリアナを地下室に監禁した。
時間が巻き戻るまでの2年間、ずっと……。
「あの時は最悪だったわ!」
タリアナは、ブルリと体を震わせる。
「……さすがに歩き辛いわね」
ドレスの裾を持ち上げて腰のところで結ぶと、険しい山を見上げた。
「今度こそ、幸せを掴んでみせるわ!」
そして、力強く一歩を踏み出した。




