アドリアン
アドリアン・ベルモンド
明るくてノリがいい東の王国の王子様。
そして、ギャンブルにはまり国の財政を傾けたーー3回目の結婚相手。
タリアナの姿を見つけた瞬間、彼は嬉しそうに駆け寄り、そのまま勢いよく抱きついた。
帯同する4人の騎士たちは、顔を見合わせてざわめいている。
「殿下が探していたのは、この娘か?」
「姫には見えないが……」
「いや、よく見ればとんでもない美少女だ」
「あの殿下がいきなり抱きしめるなんて……」
アドリアンは、騎士たちをギロリと睨んで黙らせると、タリアナを再び強く抱きしめた。
「会えるなんて、夢みたいだ。いや……もしかしてこれも夢の中か?」
「……現実だけど。アドリアン、どうしてここに来たのよ……」
タリアナはポツリと呟き、アドリアンの胸を押し返した。
「やっぱり、俺のことがわかるんだな? お前にもお告げがあったのか? 俺は、この3年間毎晩、タリアナと夫婦として生活する夢を見ているんだ。あれは、神のお告げだと思っている」
「お告げね……」
「タリアナがヴァロアの漁村から馬車に乗ってやって来るはずだった日、俺は朝から晩まで待ち構えていたんだが……来なかったから探しに来たんだ。漁村で『ドレス姿の少女が山に入って行くのを見た』と聞いて、まさかと思って山を登ってみたら……本当に会えた。一緒にベルモンド王国に行こう!」
「お断りします」
「なんで? ああ……もしかして、俺が公費をギャンブルに注ぎ込んで、国を破綻させるようなクズ男だと思っているのか? それなら、心配無用だよ」
アドリアンは、得意顔で話し続ける。
「夢の中の俺は、手っ取り早く金を作って宝石やドレスをたくさん贈ることが、愛情表現だと思っていた。でも、夢の中のタリアナに何度も諭されて目が覚めたんだ。今は国のことを第一に考え、贅沢はせずに少しずつ蓄えている。ギャンブル仲間とも縁を切った。そのおかげで、父上が俺を信頼して政治を任せてくれるようになった」
「まぁ……随分真面目になったのね、立派だわ。 アドリアンは、前世の父親に似ていて……放っておけなかったんだよね。でも、今のあなたなら、わたしなんて必要ないわ。もっと、王太子妃にふさわしい上品で高潔な女性と一緒になれるはずよ。影ながら応援しているわ!」
「え? そんなこと言うんだ。タリアナが現実世界にいると知った俺が、他の女で満足できるわけがないじゃないか」
タリアナはため息をつき、助けを求めるようにルシアンを見る。
ルシアンは苦笑しながら、小さく頷いた。
「わたしは、彼のことが好きなの!彼じゃないと駄目なの!」
タリアナが腕を掴んだ男を、アドリアンが初めて認識したように凝視する。
艶のある茶髪に端正な顔立ち。どことなく品が感じられるが、着ている服は山賊が着るような粗末な登山服だ。
「おいおい……誰なんだよ、その男」
「旅人のルシアンよ。この山で知り合ったの。知り合ってまだ数日だけど、一緒にいると安心するの」
「……まさか、一緒に寝泊まりしているのか?」
「別々に寝てるわ。……あ、でも昨日だけは腕枕で寝ちゃったんだった」
「は? 本当か?」
睨みつけられたルシアンは、戸惑いながら口を開く。
「……手は出していない。まあ、添い寝をしたのは事実だけど。彼女は、俺と一緒にモンテール帝国に行く。手放す気はない……あ、ありません」
旅人と言いながら敬語を忘れていたことに、ルシアンは焦りだしたが、アドリアンはそれを気にする様子もなく頷いた。
「手を出されてないならギリギリセーフだな。今日は俺たちもここでテントを張るよ。いいか?」
「……暗くなって来たから、先に進むのは危険だもんね。別に構わないわよ」
「やった! タリアナ、今夜は俺と一緒にテントで寝ないか?」
「それは絶対いや!」
「一緒に寝るのが嫌なら、カードゲームでもする? ボードゲームも持ってきてるよ。タリアナ、そういうの好きだろ?」
「う……好きだけど……」
楽しそうな誘いに、タリアナの心が揺らぐ。
そんな様子を、ルシアンは隣で心配そうに見つめている。
「二人きりが嫌なら、その旅人も一緒でいいぞ」
「ルシアンも一緒? それなら……」
誘惑に負けるタリアナに、ルシアンが呆れて口を開こうとした、その時だった。
ガサゴソ――。
藪を掻き分けて近づいてくる音が聞こえた。
「誰だ!」
「獣か?」
騎士たちは警戒して一斉に剣を構える。
タリアナはルシアンに向けて小さく呟く。
「なんだか、嫌な予感がするわ。もしかしたら……」
「ああ……2度あることは3度あるか……」
ルシアンは身構える。
もし、タリアナの前回の夫、フェリクス・ローゼンが現れたら、今度こそ正体がばらされるかもしれない。
ヴァロアの王子たちとは挨拶程度の関係で、アドリアンとは面識がなかった。
だが、フェリクスは違う。
友好国の王子として、幼い頃から親しくしてきた相手だから。
「タリアナ。やっと見つけた……」
藪の中から現れたのは、案の定、フェリクスだった。




