休憩
「はぁ、はぁ……追いかけてこないね。諦めてくれたのかな?」
山の中腹まで一気に駆け下りたタリアナは、肩で息をしながら後ろを振り返る。
「はぁ……そうだな。だけど、油断はしない方がいい」
ルシアンは苦しそうに息を整えながら、タリアナの肩に手を置いた。
2人は木陰に腰を下ろし、持参していた水を口にする。
ようやく呼吸が落ち着いた頃、タリアナがぽつりと呟いた。
「……それにしても、びっくりしたわ。まさか、リシャールとエドガーが、わたしと過ごした別の未来を夢で見ていたなんて」
「3回目と4回目のループでは、彼らは追いかけてこなかったのか?」
「ええ。実は4回目のループでは、フェリクスとの結婚パーティーで2人に会っているの。でも、その時のリシャールはマーレット様と夫婦で出席していたし、エドガーは、わたしには興味を示さなかったわ」
「そうか……今回は今までとは違うわけだな」
少しだけ沈黙が流れ、タリアナが口を開いた。
「あ……ルシアン。さっきは急に変なことを言ってごめんね」
「ん?」
「あの……『愛してる』とか、『一緒になりたい』とか」
「ああ……別に気にしてないよ」
そう答えながらも、ルシアンは思わず視線を逸らした。
「そうだよね。ルシアンみたいな素敵な人なら、ああいう言葉なんて聞き慣れているだろうし。わたしなんかの告白じゃ揺らがないか……」
「……あれは告白じゃなくて、逃げるための口実だろ?」
「さあ……それはどうかな?」
悪戯っぽく首を傾げるタリアナに気付いて、ルシアンは少しだけ頬を膨らませた。
「……からかうなよ」
「ふふっ」
タリアナは楽しそうに笑いながら立ち上がる。
「そろそろ暗くなりそう。この辺で野営にしようか。今日はたくさん進んだから、明日には麓まで下りられそうだわ」
「……そうだな」
ーー今日が、一緒に過ごす最後の夜になるかもしれない。
その前に、思いを伝えるべきか。
だが、素性を知られたら逃げられてしまうかもしれない。
逃げられなくても、気まずくなって、もう会ってもらえなくなるかもしれない。
だったら……
友人として、時々会えるだけで十分じゃないか。
小屋を建て、水を汲み、焚き火を起こす間、タリアナは他愛もない話をして笑っていた。
だが、ルシアンはずっと上の空だった。
我に返ると、いつの間にかタリアナの顔が目の前にあった。
「ルシアン、どうしたの? 考えごと?」
「うわっ……!」
ルシアンはたじろぎ、干し肉が入った皿を落としてしまった。
「あ、悪い……」
「大丈夫よ。洗って火を通せば食べられるから。……ルシアン、疲れちゃった? 明日には旅が終わるから、あと少しの辛抱だよ」
「……そうだな」
タリアナは、うつむいたルシアンの頭を撫でようと手を伸ばす。
その時。木々の向こうから声が聞こえた。
「煙が上がっているのはこっちです!」
「……誰かいます!」
タリアナは息をのむ。
追いつかれた――そう思った。
だが、木々の間から姿を現したのは、リシャールでもエドガーでもなかった。
ルシアンを捜索している仲間でもない。
「アドリアン……あなたも来たのね」
「タリアナ! やっぱりお前なんだな!」
3人目の王子の登場に、タリアナは苦笑いを浮かべ、ルシアンは静かに頭を抱えた。




