エドガー
エドガー・ヴァロワ。
一途で真っ直ぐな第2王子。
執着するあまり、タリアナを地下室に監禁したーー2回目の結婚相手。
まさか、一緒に来ていたとは……。
後ろには8人の騎士たちが控えているが、無言のまま成り行きを見守っている。
「タリアナ、会えて嬉しいよ」
無邪気な笑顔を向けられ、タリアナは戸惑いを隠せない。
「おい!」
エドガーの肩を後ろから掴んだのは兄のリシャールだった。
「どういうことだ? エドガーはタリアナと面識が無いはずだろう?」
「……兄上は、さっき、タリアナと結婚していた夢を見たと言ってたよね? 同じなんだ。僕は、5年も前から毎日のように同じ夢を見ている」
「まさか、それって……」
「タリアナと愛し合っている夢だよ。夢の中のタリアナは、兄上から逃げて僕のところに来てくれた。……本当に可愛いかった」
エドガーはうっとりと目を細める。
「ただ、兄上も諦めきれずにいつもタリアナを奪おうとしてきたし、王宮を訪れた男たちは、揃ってタリアナに色目を使ってきた。王太子妃だったマーレット嬢は、そんなタリアナに嫉妬して何度も毒を盛ろうとした。僕は、大切な彼女を誰の目にも触れさせないために、地下室に閉じ込めたんだ」
「監禁したってことか? さすがにやりすぎだろう」
「タリアナも何度もそう言っていた。だけど、夢の中の僕には、他に方法が思い付かなかったんだ。2人で王宮を出る勇気もなかったし、タリアナを誰にも奪い取られない自信もなかった」
エドガーは困ったように笑い、真っ直ぐにタリアナを見つめた。
「でも、今の僕は違う。あの夢を見るようになってから、人一倍努力したんだ。王宮をいつでも出られる知識も財力もある。君に害をなす者を遠ざけられるだけの権力も、剣の腕も身につけた。兄上にも負けるつもりはない。だからタリアナ、僕と一緒になろう!」
「お断りします」
「え……何故? 初対面のタリアナが僕のことを知ってるってことは、僕たちは同じ夢を見ていたってことだよね? すごくロマンチックで運命的じゃないか」
「はぁ……、確かに夢を見ていた可能性はあるわ。わたしには、エドガーと結婚していた記憶も、リシャールと結婚していた記憶もあるの。だけど、夢は夢。現実とは違うのは当たり前よ」
「せっかく現実世界で会えたのに、そんなに冷たいことを言わないでくれ。いきなり結婚じゃなくていい。まずは恋人から始めよう」
必死に訴えるエドガーを、リシャールが遮る。
「おい、エドガー。抜け駆けはするな。タリアナは俺と結婚していた記憶もあると言ったじゃないか。どちらが運命の相手なのか、タリアナ自身に選んでもらおう」
「……そうだね。それが公平だ」
2人は揃って右手を差し出した。
タリアナはきっぱりと言い放つ。
「ごめんなさい。わたしは、どちらとも結婚しません。恋人にもなりません。王子様だけは絶対に嫌!」
タリアナの返事に、黙って見ているだけだった騎士たちの間に緊張が走った。
「だったら……僕と駆け落ちする?」
エドガーは、おずおずと問いかける。
「エドガー、それも無理。せっかく努力して自信を手に入れたんだから、わたしなんかに執着するのはもったいないわ。もっと周りを見て。あなたを慕っている女性はたくさんいるんだから」
今度はリシャールが、すがるような眼差しを向ける。
「王宮に入るのが嫌なら、離宮を建てよう。俺は、君だけを愛している」
「リシャール。浮気をしなくなったのは良い心がけだけど、わたしじゃない相手を見つけた方がいいわ。わたしは、王太子妃には向いていないの。自由に生きていきたいから」
「……そんな理由じゃ、俺は諦められない」
「僕もだ。どうしても駄目?」
2人の視線から逃れるように、タリアナは意を決してルシアンの手を握った。
「わたしが愛しているのは……ルシアンよ。この人と一緒になりたいの!」
咄嗟についた嘘だと分かっていながら、ルシアンの顔はみるみる赤く染まる。
「待て。今……ルシアンと呼んだな。やっぱり帝国の――」
リシャールとエドガーは一瞬顔を見合わせ、ルシアンを凝視する。
ルシアンはごまかすように声を張り上げた。
「俺は……タリアナを手放すつもりはない!」
「まさか……彼女に素性を隠しているのか?」
リシャールは怪訝そうに眉をひそめる。
エドガーは潤んだ瞳でタリアナを見つめた。
「タリアナ、君は騙されている。遊ばれて捨てられるのがオチだ。だって、この人は――」
「何も知らないくせに、ルシアンを悪く言わないで!」
タリアナはルシアンの手を強く握り直す。
「行こう、ルシアン!」
2人は頷き合うと、全速力で逃げ出した。




