別れ
次の日、お礼を言って去ろうとしたタリアナとルシアンを、アラシが泣いて引き止めた。
「タリアナ、ルシアン行かないで……もっとたくさん遊びたいよぉ」
「アラシ、無理を言っては駄目よ。寂しいのは良くわかるけど……」
ツユがアラシの頭を撫でる。
「寂しいからって泣くんじゃない。……あれ? おいらも涙が……」
ナッツは、見た目に似合わず涙もろい。
「昨日はたくさん飲みすぎてたから、山を越えるのは無理じゃないっすか?」
ハルクは、心配そうにルシアンの服をつまんでいる。
「身体は問題ないよ。俺は酒が次の日に残らないタイプだからな。タリアナも元気そうだし……。ただ、昨夜は飲み過ぎて途中からあまり覚えていないんだが……失態をさらしてないよな?」
ルシアンは、小声でハルクに問いかけた。
「ああ……大丈夫。ルシアンさんは、普段からあのぐらい素直になった方がいいっすよ。みんなはボスに頑張らせたいみたいだけど……俺は、ルシアンさんを応援してるっす!」
「ん? 何の話かよくわからないが……感謝する。そろそろ行くよ」
「どうしても行くのか? 2人共まだゆっくりしていけばいいのに」
「そうよ、そんなに慌てなくても……」
アキムとシューリンも名残惜しそうだ。
タリアナは、予想していた以上に引き止めてくる山賊の仲間たちを見回し、照れたように笑った。
「みんな、ありがとう。引き止めてくれるのは嬉しいんだけど、ルシアンを早く送り届けないと、一緒に山に来た仲間が心配して探しているかもしれないから……。でも、また会えるよ」
「ほんと?またあした会いに来る?」
アラシがタリアナの足にしがみつく。
「さすがに明日は無理だろうけど……」
困った顔で考えこんだタリアナに微笑みながら、フュードがアラシを抱き上げて、言い聞かせる。
「アラシ。タリアナたちはモンテール帝国に行くんだ。俺は今、モンテール帝国でレストランを開く準備をしている。出来上がったらみんなで一緒に行くから……絶対にまた会えるよ。店に来てくれるよな? タリアナ」
「もちろん! できるの楽しみにしてる。絶対に常連さんになるわ。おいで、アラシ。ここを離れる前に、もう一度秘密基地を見てこよう!」
タリアナは、フュードに抱えられたアラシに両手を差し出す。アラシは涙を拭ってタリアナに抱きついた。
「ちょっとだけ待っててね、ルシアン」
タリアナは、そう言い残すと昨日作った秘密基地の方向へ駆けて行った。
タリアナの背中を見送るルシアンの隣りに、フュードが並び、呟くように話しかける。
「……タリアナには、自分から早めに素性を伝えた方がいいぞ。ルシアンのことは国を上げて捜索しているだろうから、どうせ、ずっと秘密には出来ないだろ」
「……やっぱりフュードは気付いていたか。話したくないけど、いつか言わないとな……。なあ、お前はモンテール帝国の未来を知っているんだよな?」
「ルシアンが死んでしまった別の未来か? まあ、知っていると言っても3年先までだけどな。特に問題はおきていなかったよ。ルシアンの顔は、大きな肖像画が中央広場に掲げられていたからよく覚えている。亡くなって1年経っても、涙を流しながら花を捧げていく国民たちを何度も目にした。公には視察中に猛獣に襲われて亡くなったことになっていたけど、本当は君の弟がわざと深い森に置き去りにし、実権を奪うための策略をけしかけたんじゃないか? とあちこちで囁かれていたよ。でも、そんな噂はいつの間にか消えた。『兄が好きだった知る人ぞ知る帝国の伝統料理を、国の名物料理にしたい。そして、食べる度に兄のことを思い出してほしい』と、君の弟がラザージョを広め初めたからだ。俺は、4回のループで、いつもその一端を担ってた。……考えたら俺たちも、不思議な巡り合わせだよな」
「確かに。俺は……本当に死ぬはずだったんだな。俺が死んで得するものがいないとは思わないけど、それが弟の策略だったとは考えられない。弟は軽薄な性格で誤解されやすいやつだけど、誰よりも愛情深くて信用できるやつだ。ラザージョをフュードが作り、タリアナが食べたおかげで、時間が巻き戻って俺が救われたとしたら……それは弟のおかげでもある」
「ルシアンがタリアナに素性を話したくないのは、彼女が王子にトラウマを持ってるせいか?」
「そうかもな。まあ、俺は王子じゃなくて皇子なんだけど」
「……一緒じゃねぇか」
フュードとルシアンは、競うように走ってくるタリアナとアラシに笑顔で手を振った。




