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時戻り

「俺のレストランにタリアナが来てたって?」

フュードは驚いて目を瞬かせた。


タリアナは困ったように眉をひそめ、小さく頷く。


「うん。あの頃……夫だったアドリアンが公務から逃げ出して、帝国の賭博場に入り浸っていたの。わたしは、叱りつけて連れ戻すつもりで、追いかけていたんだよね。……あのレストラン『アジト』は、賭博場からも近い店だったでしょ?」


「ああ、まあな。そうか……思い出したよ」

フュードは記憶を辿るように目を細める。

「あの時は信じていなかったけど、自分をベルモンドの王子だと名乗る男が店に毎日のように来ていた時期があった」


「アドリアンが?」


「多分な。そいつに相談されたことがある。『俺は、王子なのに自由にできる金が少ない。もうすぐ愛する妻の誕生日だから金を倍にして特別な宝石をプレゼントしたくて、ギャンブルに手を出した。少しだけお金を借りるつもりで公費も使い込んでしまった。一体どうすれば、宝石をプレゼントできる?』って」


「公費をギャンブルに注ぎ込んでた理由が、妻に宝石を贈るため? ……大馬鹿者ね」

タリアナは呆れたように肩を落とした。


「俺もそう思うよ。山賊の俺が言えた義理じゃないけど、王子が国の金を使い込むのはアウトだろ。第一、タリアナは、宝石なんかじゃ喜ばないよな? むしろ、珍しい本とか美味しい料理の方が喜ぶだろ?」


「よくわかってるね、フュード。わたしたち、会うのは今日が初めてなのに」


「うん。だけど、タリアナは初めて会った気がしないんだよな。もしかして……前世で大切な人だったとか?」


ーーフュードの声に耳を傾けていたルシアンは、手にしていたジョッキへ静かに視線を落とした。


前世? 時戻り?


自分の知らない時間を、2人はどこかで共有していたのだろうか。


何だろう、この得体の知れない胸のざわつきは……。


「ルシアンさん、ペース早いっすよ」


隣に座るハルクが苦笑しながら、空になったジョッキへ酒を注いだ。


「……大丈夫だ」


短く返したルシアンは、新しく注がれた酒にも口をつけた。


タリアナは、可愛い顔を傾けてフュードを見ている。


「まさか、前世の旦那様? それとも、弟かしら? フュードも前世を覚えてるの?」


「いや、残念ながら覚えていないよ。前世のことは知りようがないけど……何か不思議な運命に導かれてる気はする」


「そうかもね。わたしは、あのレストランのラザージョを食べたその夜、再び時が戻ったの。3回目のループの時だけじゃない。2回目も4回目もそう……」


「ああ、そうか。多分俺もその時に……。俺は、2回目の時戻りの前、ヴァロア王国のエドガー王子に呼ばれて、4回目の時戻りの前はローゼン国の王宮に呼ばれてラザージョを作ったんだ。結局あれは、どっちもタリアナのためだったんだな」

フュードは、照れくさそうに頭を掻いた。

「……タリアナは、元夫たち全員が駄目王子だと言っていたけど……間違いなく愛されていたよな?」


「いやいや、いくら一途でも、妻を監禁するヤンデレ王子や、普段は理解があって優しくても、酒を口にした途端手が出る暴力王子なんて……問題外でしょ」


「ぶっ……!」

シューリンが思わず吹き出した。

「王子様って、もっと優雅な人たちだと思ってたわ」


アキムも苦笑しながら頷く。

「……本当だよな。だけど、タリアナのことだから、ただ黙っていたわけじゃないんだろ?」


「もちろん。部屋から出してもらえなかった時も、それなりに楽しんでいたよ。エドガーは、私が公の場に出ることは嫌がったけど、わがままは何でも聞いてくれたから、世界中の本や便利道具を取り寄せてもらっていっぱい知識を得ることができたわ。古い抜け道を見つけ出してからは時々こっそり街に出ることもあったの」


「監禁してるのに街へ出られてるじゃねえか!」


アキムが呆れたように呟くと、周囲から笑いが漏れる。


「前回のループで、フェリクスが酒を飲んで背中を叩いてきた時は、即座に回し蹴りを返していたし、殴りかかられた時は腕を掴んで投げ飛ばしてたわ。おかげで少し力が強くなった気がするの」


「……それは『少し』じゃないわね」

シューリンが肩を震わせる。


宴会場は一気に笑いに包まれた。


その向かいの席で、ルシアンは再び酒をあおる。


空になったジョッキを見たハルクは、眉を寄せる。


「ルシアンさん、本当に大丈夫っすか?」


「……ああ」


「全然大丈夫そうじゃなさそうっすけど」


ハルクはルシアンの肩を叩くと、今度は酒ではなく肉料理を皿へ取り分けた。


「ほら、肉も食べるっす。空きっ腹で飲んでると、明日地獄を見るっすよ」


「……悪い」


ルシアンはようやく肉を口に運んだ。

あまりの美味しさに、思わず唇を噛み締める。


その様子をチラチラと見ていたシューリンは、クスリと笑った。


一方、タリアナはルシアンの視線にはまったく気づかないまま、フュードと話し続けている。


「王子に回し蹴りか。ははっ、タリアナらしいな。だけど、不思議だな。知らないうちに俺はタリアナと何度も接近していたなんて。しかも接近した時に、2人の時間が巻き戻っていたなんて……」


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