住処
山賊の住処は、高原から更に5分ほど山を登ったところにあった。
古いけれど手入れが行き届いたログハウスは、想像していた以上に広い。
「わあ、いい家ね。ここには、フュードたち4人の他にもたくさん住んでいるの?」
タリアナは、家の造りに興味があるようで、キョロキョロと壁や天井を見渡しながら問いかけている。
「昔は、30人ぐらいの山賊たちが住んでいたんだけどね。今は俺らと、アキムとナッツの家族だけだよ」
「家族?」
「紹介するよ。ちょっと待ってて」
フュードは、アキムとナッツに声をかけて一緒に奥の部屋へ入って行った。
ようやく1人になったタリアナに、ルシアンが近づいて話しかける。
「タリアナ……あまり気を許しすぎるなよ。危害を加えない約束をしたとはいえ、相手は山賊なんだから」
「わかってる。だけど…… フュードは初めて会った気がしないというか……。何故か気になって仕方がないのよね……」
タリアナは首を傾げると、奥の部屋から戻ってきたフュードたちに気づいて駆け寄って行った。
「気になって仕方ないか……」
肩を落としたルシアンを、若い山賊のハルクがからかう。
「うかうかしてると、彼女取られちゃうっすよ〜。ボスはマジでモテる男っすからね」
「……俺とタリアナは、そういう関係じゃない」
「へえ……その割に面白く無さそうっすけどね」
タリアナがフュードと寄り添うように歩いてくるのが見えて、ルシアンの表情は明らかに歪んでいく。
「どうしたの? ルシアン。どこか痛い?」
戻ってきたタリアナに心配そうに覗きこまれ、思わず目を逸らした。
「いや、別に」
すると、逸らした視線の先にいた2人の女性と目があった。
2人はルシアンの顔を見ると、目を輝かせて身を乗り出してきた。
「キャー! 彼、王子様みたい!超タイプ」
「もう、シューリンったら、旦那さまが見てるわよ。でもほんと……こんな綺麗な顔の殿方は初めて見るわ」
キャッキャと興奮する女性たちを、アキムとナッツが苦笑しながら引き寄せた。
「家内のシューリンだよ」
アキムに紹介されたのは、小柄な彼よりも頭一つ分ぐらい背の高い女性だ。
「私たちの住処にようこそ。あなたの名前は?」
「俺は……ルシアンだ」
「うわぁ。 声もタイプ!」
ナッツに紹介されたのは、フリフリのドレスと大きなリボンで着飾った女性と、3歳ぐらいの幼い男の子だった。
「私は、ナッツの妻のツユ。この子は息子のアラシよ」
「お兄ちゃんたちも、さんぞく?」
「いや、山賊じゃない」
「じゃあ……つかまえる人? パパたち……いなくなっちゃうの?」
「いや……」
不安気に母親にしがみつくアラシに、タリアナが目線を合わせる。
「わたしたちは、パパたちのおともだちだよ。アラシも、おともだちになってくれる?」
アラシは目をぱちぱちさせた後、タリアナの胸に飛び込んだ。
「お姉ちゃんと遊ぶ!」
「いいね! 何する?」
「さんぞくごっこ!」
タリアナは、アラシに手を引かれて奥の部屋に行ってしまった。
「あ、行っちゃったわ。お客様なのに悪いわねぇ。アラシはやんちゃ坊主なんだけど、大丈夫かしら……」
「まあ、彼女なら大丈夫だろ。何せ、おいらをハルクに向けて投げ飛ばした女だからな」
「俺たちを一瞬で縛った女でもあるしね」
「何それ。詳しく聞きたいわ!」
「私も聞きたい!」
「おいらたちは今から、ボスと一緒に紫グマを調理してくるから……後でなら」
「そう……。じゃあ、タリアナちゃんに直接聞くわ。アラシのことも気になるし、シューリンも一緒に行きましょ!」
「ええ!」
シューリンとツユは楽しそうに奥へ消えていった。
気づけば、広い玄関ホールにルシアンだけが残されていた。
はしゃぐアラシの声や、タリアナたちの楽しそうな笑い声が洩れ聞こえてくる。
ルシアンは、手に抱えたままだった重い荷物を静かに床へ下ろし、小さなため息をついた。




