山賊
岩の上に無造作に置かれた荷物を奪おうとして、
思わず声を上げたのは、ヒョロリとした若い山賊だった。
「お……重てぇ!!」
後ろからやってきた筋肉隆々の男が、呆れた顔で肩を叩く。
「……まったく。ハルクは、どれだけ力がねぇんだよ。おいらが持って……あれ? おかしいな」
「何だよ。ナッツさんだって見かけ倒しじゃないっすか」
引っ張っても押してもびくともしない大きな袋を前に、2人の額に冷や汗が流れる。
悪戦苦闘していると、小柄な3人目の男が肘で2人を小突いた。
「おい……」
「ちょっと待ってくれ、アキムさん。荷物が持ち上がらねぇっす。だけど、3人で力を合わせればきっと……」
「……おい、持ち主に気づかれてるぞ」
「……チッ」
若い山賊のハルクは、舌打ちしながらナイフを取り出した。
そして、ナイフの刃先を真っ直ぐにルシアンの方へ向け、低い声で凄んだ。
「……今すぐ金目の物を出せ! すぐに渡せば、命だけは助けてやる!」
その時、ひょいと横から飛び出してきたのは、タリアナだった。
「ナイフを向けるなんて、物騒な人ね!」
「……は? 俺たちは山賊だぞ。怖くねぇのか!?」
ハルクは、どんどん距離を詰めてくる美少女に、タジタジになっている。
「うーん、怖くはないわ。紫グマより全然弱そうだもん!」
「バカにしやがって……」
真っ赤な顔になったハルクを諌め、アキムはナッツに指示を出した。
「おい、早く捕まえろ!」
「へぇ!」
タリアナは筋肉隆々のナッツに羽交い締めにされた。
しかし、その表情は落ち着いている。
ルシアンと目が合って、「大丈夫」と小さく口を動かした。
小柄ながら1番年上っぽいアキムが、タリアナの頬にナイフを突きつけてルシアンを睨んだ。
「こいつは人質だ。彼女を傷つけられたくなければ、今すぐ金目のものを出せ!」
ルシアンは、静かに一歩踏み出し、両手を上げた。
「……わかった。金目の物は全部渡す。岩の上に置いた袋の中にあるから、持っていくといい」
「このバカ重い袋の中にか。おい、ハルク開けろ」
「ロープがほどけねぇ……。袋もロープも頑丈過ぎてナイフでも切れねぇっす」
アキムはため息をつき、タリアナにナイフを突きつけたまま、ルシアンに命令した。
「袋から中身を出せ!」
ルシアンは、言われるまま荷物に近づいた。
そして、それをヒョイと持ち上げると……
アキムに向かって投げつけた。
荷物は肩をかすり、地面に落ちて深い穴をあけた。
「痛!」
アキムはバランスを崩して倒れ込んだ。
それを待っていたように、タリアナは、体をひねってナッツの拘束から抜け出すと、その腕を掴んで持ち上げ――ハルクに向かって投げ飛ばした。
それから、落ちた荷物に駆け寄り、縛っていたロープを解くと、素早く山賊たちの両手両足を拘束した。
「何だよこれ……」
ナッツは華奢な美少女に投げ飛ばされたことがショックで、唖然としている。
「ありえねぇ……」
ハルクは、まだ現実が受け止めきれない。
「ば、化け物夫婦だ!」
アキムは、ルシアンとタリアナに向かって叫んだ。
タリアナは、慌てて弁解する。
「違うわ。わたしたちは……夫婦じゃないの!」
「いや……、化け物は否定しないのかよ」
ルシアンが、タリアナの隣で肩をすくめる。
しかし、ほっとしたのも束の間。
次の瞬間、茂みの奥から巨大な影が現れた。
「あれは……さっきの……」
紫グマの顔が見えて、ルシアンが思わずタリアナの腕を掴んだ。
しかし、タリアナが見ているのは紫グマではなく……その巨体を軽々と肩に担いだ少年だった。
「ボス!」
ハルクが、少年に呼びかけた。
「……は? お前ら、何で縛られてるんだよ。今日は大きな獲物を手に入れたから、ご馳走なんだぞ……」
ボスと呼ばれた少年は、キョロキョロと辺りを見渡し、ルシアンとタリアナを見つけて目を見開いた。




