表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Forever Local」  作者: こうた
第二章「止まった人生」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/82

第9話「酒太り」

金曜日。


午後六時三十分。



---


河合町の空は薄暗くなり始めていた。



---


ナオトは仕事を終え、駐車場へ向かう。



---


ポケットにはスマホ。



---


机の引き出しには資格の本。



---


自宅には結婚式の招待状。



---


だが向かう先は、いつもの居酒屋だった。



---


車を走らせながら、自分でも苦笑する。



---


「結局か」



---


何度も変わろうと思った。



---


しかし気付けば同じ場所へ向かっている。



---


まるで磁石に引っ張られているみたいだった。



---


居酒屋の暖簾をくぐる。



---


「おう!」



---


ケンジの声が響く。



---


既に全員揃っていた。



---


タカシ。



---


シンジ。



---


ユウスケ。



---


アキラ。



---


そしてケンジ。



---


変わらない顔ぶれ。



---


変わらない席。



---


変わらない金曜日。



---


しかし変わったものもあった。



---


体型だった。



---


「お前また太ったやろ」



---


タカシが笑う。



---


ケンジが腹を叩く。



---


「うるさいわ」



---


ジョッキが揺れる。



---


全員が笑う。



---


だが笑いながらも、


誰も否定できない。



---


三十五歳になった彼らは、


全員太っていた。



---


学生時代の写真を見ると別人だった。



---


細かった。



---


顔もシャープだった。



---


目に勢いがあった。



---


今は違う。



---


腹は出ている。



---


顔は丸い。



---


健康診断では毎年注意が付く。



---


それでも誰も変わらない。



---


「健康診断どうやった?」



---


ナオトが聞く。



---


マサルがビールを飲みながら答える。



---


「血糖値引っかかった」



---


「またか」



---


「まぁ大丈夫やろ」



---


そう言って唐揚げを口に入れる。



---


全員が笑う。



---


しかし笑いの中に、


少しだけ不安が混ざっていた。



---


マサルは毎年悪化している。



---


医者からも言われている。



---


酒を減らせ。



---


体重を落とせ。



---


運動しろ。



---


だが本人は聞かない。



---


「酒やめたら人生終わりや」



---


それが口癖だった。



---


タカシが言う。



---


「俺も尿酸値ヤバかったわ」



---


「痛風なるぞ」



---


「その時考える」



---


また笑い。



---


また酒。



---


また同じ会話。



---


ナオトはジョッキを見つめる。



---


その中の泡が消えていく。



---


ふと思う。



---


いつからこうなったのだろう。



---


若い頃は、


酒を飲むことが楽しかった。



---


仲間と集まることが楽しかった。



---


しかし今は違う。



---


楽しいというより、


やめられない。



---


そんな感覚だった。



---


アキラが突然言う。



---


「高校の時さ」



---


全員が見る。



---


「俺らもっと格好良かったよな」



---


タカシが吹き出す。



---


「それは間違いない」



---


ケンジも笑う。



---


「写真見たらびっくりするわ」



---


ユウスケがスマホを取り出す。



---


成人式の写真だった。



---


十数年前。



---


全員若い。



---


全員細い。



---


全員未来を信じている顔をしている。



---


店の空気が少し静かになる。



---


誰も口にしない。



---


しかし全員思っていた。



---


戻れない。



---


もう戻れない。



---


その現実を。



---


ケンジが無理やり笑う。



---


「まぁ今の方が貫禄あるやろ」



---


笑いが起きる。



---


だが長続きしない。



---


その時だった。



---


店の入口が開く。



---


若い男女のグループが入ってくる。



---


二十代前半くらい。



---


楽しそうに笑っている。



---


将来の話。



---


仕事の話。



---


恋人の話。



---


聞こえてくる声は明るかった。



---


河合町ソールズのテーブルだけが、


少し違う時間を生きているように見えた。



---


ナオトは目を逸らす。



---


見たくなかった。



---


若さではない。



---


可能性だった。



---


自分たちにもあったはずのもの。



---


そして少しずつ失ってきたもの。



---


ケンジがビールを飲み干す。



---


「次行くか」



---


またその言葉。



---


誰も反対しない。



---


時計は午後十時。



---


まだ夜は長い。



---


彼らは立ち上がる。



---


そして気付かない。



---


この「まだ大丈夫」という感覚こそが、


後に全員を破滅へ導く最初の病だったことを。



---


第10話「見えない借金」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ