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Forever Local」  作者: こうた
第二章「止まった人生」

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第10話「見えない借金」

「次行くか。」


ケンジの一言で、いつものように会計が始まる。


誰がいくら払ったかは曖昧だ。


細かく割り勘をする者もいない。


足りない分は誰かが出す。


次回になれば逆になる。


そう思っている。



---


しかし実際は違った。



---


タカシは財布を開く。


中には一万円札が一枚。


千円札が二枚。


小銭少々。



---


給料日からまだ十日しか経っていない。



---


ケンジが聞く。


「どうした?」



---


「いや、別に」



---


タカシは笑う。



---


笑うしかない。



---


カードの支払いがある。


車のローンがある。


スマホ代がある。


パチンコで負けた金もある。



---


そして誰にも言っていないものがあった。



---


消費者金融。



---


借入額三十万円。



---


最初は五万円だった。



---


パチンコで負けた穴埋め。



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次は飲み代。



---


その次は車検。



---


気付けば膨らんでいた。



---


「まぁ何とかなる。」



---


タカシはいつもそう考えていた。



---


実際、今までは何とかなってきた。



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だから今回も何とかなると思っている。



---


思い込んでいる。



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店を出る。



---


夜風が少し冷たい。



---


六月の終わり。



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湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。



---


ケンジが先頭を歩く。



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後ろに皆が続く。



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まるで学生時代のままだ。



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しかし違う。



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学生は未来へ向かって歩く。



---


彼らは同じ場所を回っているだけだった。



---


コンビニへ入る。



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酒を買う。



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誰かの家へ行く流れになった。



---


「朝までやろうぜ。」



---


タカシが言う。



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誰も反対しない。



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ナオトだけが時計を見る。



---


午後十一時四十分。



---


明日は土曜日。



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だから問題ない。



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その考え方が、いつの間にか当たり前になっていた。



---


コンビニを出る。



---


その時だった。



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店の前で若い夫婦が子供を抱いて歩いていた。



---


三歳くらいだろうか。



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父親の肩に乗って笑っている。



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母親も笑っている。



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普通の光景。



---


しかしナオトは目で追ってしまう。



---


タカシも見ていた。



---


ユウスケも。



---


アキラも。



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誰も何も言わない。



---


言葉にすると苦しくなるからだ。



---


ケンジだけが笑う。



---


「俺らにはまだ早いな。」



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全員が笑う。



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だが、その笑いは弱かった。



---


三十五歳。



---


本当は「まだ早い」年齢ではない。



---


むしろ遅いと言われても仕方がない年齢だった。



---


アキラがぽつりと言う。



---


「俺ら結婚できるんかな。」



---


沈黙。



---


誰も答えない。



---


答えられない。



---


その質問は笑い話ではなくなっていた。



---


タカシが缶ビールを開ける。



---


プシュッという音。



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その音で空気を変えようとする。



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「まぁ、今は自由やし。」



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誰も反論しない。



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しかし誰も本気で同意していない。



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自由。



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その言葉は便利だった。



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現実から目を逸らせる。



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責任を持たなくて済む。



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変わらなくて済む。



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だが本当に自由なのだろうか。



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ナオトは思う。



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金曜は飲む。



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土曜はパチンコ。



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日曜は二日酔い。



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月曜は仕事。



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そしてまた金曜。



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それは自由ではなく、


決まったレールなのではないか。



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誰も強制していない。



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しかし誰も降りられない。



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そんなレール。



---


深夜一時。



---


アキラのアパート。



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男たちは床に座り込み、


缶ビールを並べる。



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テレビではバラエティ番組が流れている。



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誰も真面目に見ていない。



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会話も途切れ途切れになる。



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酔いが回っている。



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疲れも出ている。



---


だが帰ろうとはしない。



---


帰ると現実が待っているからだ。



---


その時、


タカシのスマホが震えた。



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画面を見る。



---


知らない番号。



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しかし誰からかは分かっている。



---


支払い催促だ。



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タカシは無言で画面を伏せる。



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ケンジが聞く。



---


「出んの?」



---


「営業やろ。」



---


嘘だった。



---


だが誰も追及しない。



---


追及されたくないことは、


皆それぞれ持っていた。



---


ナオトはその様子を見ていた。



---


タカシの顔色が少しだけ変わったことに気付いていた。



---


しかし何も言わない。



---


それがこのグループだった。



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助けないわけではない。



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だが踏み込まない。



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だから問題は見えないまま大きくなる。



---


借金も。



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病気も。



---


孤独も。



---


後悔も。



---


深夜二時。



---


笑い声が響く。



---


しかしその笑いの下で、


少しずつ人生が崩れ始めていた。



---


そして誰も、


まだその音に気付いていなかった。



---


第一章 完


第二章「止まった人生」


第11話「健康診断」へ続く。

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