第67話「継続」
二月。
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冬はまだ居座っていた。
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寒さは変わらない。
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ただ、人のほうが慣れていく。
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それぞれの生活は淡々と続いていた。
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マサルは職場での作業量が増えていた。
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任される範囲が少し広がる。
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それは評価というより、
「任せても問題ない」という判断だった。
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義足の違和感はほとんどない。
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ただ疲労は蓄積する。
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それでも翌日に持ち越さない工夫を覚えていた。
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シンジは通院と生活のバランスを完全にルーチン化していた。
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危うさは消えていない。
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だが“管理できている状態”が続いている。
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医師の言葉は変わらない。
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「安定しています」
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その一言がすべてだった。
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アキラは職場で後輩から頼られる場面が増えた。
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説明する側になる。
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かつての自分を思い出すこともある。
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それでも今は前に出ている。
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ユウスケはトレーニングの質が変わっていた。
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重量よりも調整。
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見せるためではなく、
維持するための身体。
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ナオトは静かに状況を見ている。
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介入はしない。
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ただ記録のように見ている。
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夜。
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喫茶店。
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会話は短い。
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だが途切れない。
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マサルが言う。
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「去年よりは落ち着いたな」
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アキラが頷く。
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「騒ぎがないだけマシや」
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ユウスケが続ける。
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「でも退屈とは違うな」
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シンジは少し考えて言う。
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「生きてるだけで十分忙しいわ」
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その言葉に軽い笑いが起きる。
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ナオトが言う。
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「継続ってのはな」
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「変化がないことやなくて」
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「変化を受け入れて続けることや」
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その言葉が静かに落ちる。
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誰も否定しない。
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むしろ納得に近い。
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外はまだ寒い。
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だが風は少しだけ柔らかい。
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マサルは帰り道で立ち止まらない。
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シンジは薬を確認する。
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アキラは翌日の予定を見る。
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ユウスケはジムへ向かう準備をする。
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それぞれの“継続”。
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派手ではない。
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しかし確実に続いている。
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ナオトはそれを見送りながら思う。
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「これが一番むずいんやろな」
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崩壊でも成功でもない状態。
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ただ続くこと。
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そして物語は、
次の“停滞と進行の境界”へ向かう。
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第68話「境界」へ続く。




