第66話「新年」
一月。
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新しい年は静かに始まった。
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街の空気はまだ冷たい。
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それでもどこかだけ明るい。
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“始まった感覚”だけが先に来る。
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マサルは正月休み明けの準備をしていた。
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義足のストラップを締め直す。
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靴を履く。
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いつもの動作。
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だが今年は少しだけ違う。
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迷いが少ない。
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それだけだった。
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シンジは年明け最初の通院日だった。
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検査結果は安定。
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医師は短く言う。
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「維持できています」
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それは最大の評価だった。
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危険な均衡。
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しかし確かに“保たれている”。
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アキラは仕事初日から忙しかった。
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去年の延長ではなく、
今年の現実として始まっている。
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机の上の資料は増えている。
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だが手は止まらない。
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ユウスケはジムの初トレーニングに来ていた。
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正月明けの身体は重い。
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それでも戻る場所はここだった。
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ナオトは変わらない。
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ただ全員に軽く連絡を入れる。
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「今年もぼちぼちやな」
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それだけだった。
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夜。
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喫茶店。
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新年最初の集まり。
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少しだけ空気が違う。
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新しい年というだけで、
人は少し前向きになる。
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マサルが言う。
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「今年はもうちょい楽にやりたいな」
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アキラが笑う。
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「それは無理ちゃう?」
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ユウスケが続ける。
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「でも去年よりはマシやろ」
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シンジは静かに言う。
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「マシやと思えるだけで十分や」
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その言葉に誰も反論しない。
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ナオトが言う。
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「去年の延長やけどな」
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「でも同じやない」
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その通りだった。
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同じ一年は二度と来ない。
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外は冷たい風。
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しかし空は少しだけ澄んでいる。
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マサルは帰り道で深く息を吐く。
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シンジは薬の袋を確認する。
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アキラはスケジュールを開く。
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ユウスケはトレーニング記録をつける。
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それぞれの“今年”。
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まだ始まったばかりだった。
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ナオトは最後に言う。
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「また一年やな」
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それは宣言でもなく、
確認でもなく、
ただの事実だった。
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そして物語は、
さらにその先へ続いていく。
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第67話「継続」へ続く。




