第65話「年の瀬」
十二月末。
---
街の空気だけが少し速く流れていた。
---
---
仕事納め。
---
---
帰省。
---
---
買い出し。
---
---
その喧騒の外側に、
彼らはいた。
---
---
マサルは最後の出勤日を終えていた。
---
---
職場の空気はいつもより柔らかい。
---
---
一年が終わるというだけで、
人は少しだけ優しくなる。
---
---
義足の音はもう職場の一部だった。
---
---
誰も特別扱いしない。
---
---
それが今の“普通”だった。
---
---
シンジは病院の外来を終え、
年内最後の診察を受けていた。
---
---
状態は維持。
---
---
悪化なし。
---
---
それだけで十分だった。
---
---
「この状態を続けること」
---
---
それが今年の成果だった。
---
---
アキラは職場で年末の整理をしていた。
---
---
デスクの上。
---
---
書類。
---
---
積み上がった記録。
---
---
その一つ一つが、
今年の時間だった。
---
---
ユウスケはジムの最終トレーニングを終えていた。
---
---
汗。
---
---
疲労。
---
---
だが充実感もある。
---
---
今年は崩れなかった。
---
---
それが一番大きい結果だった。
---
---
ナオトは特に変わらない。
---
---
ただ年末の連絡を回している。
---
---
「来れるやつだけでええ」
---
---
その一言だけだった。
---
---
夜。
---
---
小さな喫茶店。
---
---
年末の最後の集まり。
---
---
静かだった。
---
---
しかし空気は悪くない。
---
---
むしろ安定している。
---
---
マサルが言う。
---
---
「一年って早いな」
---
---
アキラが笑う。
---
---
「でも中身は濃かったやろ」
---
---
ユウスケが頷く。
---
---
「俺は変わったと思うわ」
---
---
シンジは少し考えて言う。
---
---
「変わったというより、戻れんようになっただけかもな」
---
---
その言葉に少しだけ沈黙。
---
---
だが否定はない。
---
---
それが事実に近いからだ。
---
---
ナオトが言う。
---
---
「戻れんのは悪いことちゃう」
---
---
「前に進んでるってことや」
---
---
外では雪が混じり始める。
---
---
静かな年の瀬。
---
---
マサルは帰り道、
空を見上げる。
---
---
シンジは薬を確認する。
---
---
アキラは来年の予定を考える。
---
---
ユウスケは来月のトレーニングを想像する。
---
---
それぞれの“来年”。
---
---
それは不安ではなく、
継続だった。
---
---
ナオトは最後に言う。
---
---
「終わりやない」
---
---
「区切りや」
---
---
その言葉で一年が締まる。
---
---
そして彼らは、
それぞれの場所へ帰っていく。
---
---
同じ地元で、
違う生活へ。
---
---
しかし完全には離れない。
---
---
見えない線で繋がったまま。
---
---
そして物語は、
新しい一年へと続いていく。
---
---
第66話「新年」へ続く。




