第64話「選択」
十二月。
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年の終わりが近づいていた。
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街は少しだけ慌ただしい。
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しかし彼らの時間は静かだった。
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マサルは職場で年末調整の書類を受け取っていた。
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何気ない紙。
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だがそこに“継続している生活”が刻まれている。
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来年もここにいるのか。
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その問いが一瞬だけ頭をよぎる。
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だが深くは考えない。
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今は“続いていること”が優先だった。
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シンジは外来診察で医師と話していた。
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状態は安定。
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しかし条件付きの安定。
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医師は繰り返す。
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「再飲酒だけは絶対に避けてください」
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それはもはや警告ではなく前提だった。
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シンジは頷く。
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それが“選択”だった。
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アキラは職場で後輩の指導をしていた。
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説明する立場。
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失敗もある。
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だがそれを含めて任されている。
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それが少しだけ誇りだった。
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ユウスケはジムで減量を終え、
次のシーズンへ向けて調整していた。
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「続けるかどうか」の選択ではない。
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「どう続けるか」の段階に来ていた。
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ナオトは変わらない。
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ただ全員の変化を見ている。
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夜。
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喫茶店。
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年末前の静けさ。
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会話はゆっくりだった。
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マサルが言う。
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「俺、来年もここで働くと思う」
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アキラが続ける。
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「俺も多分同じやな」
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ユウスケは少し笑う。
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「俺はまた大会出るかも」
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シンジは静かに言う。
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「俺は生きるの続けるだけや」
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それぞれ違う選択。
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しかし根っこは同じだった。
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“続ける”という一点。
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ナオトが言う。
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「選択ってな」
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「大きいも小さいもないねん」
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「毎日が選択や」
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その言葉に全員が少し黙る。
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外では冬の風。
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年末の光。
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それでも世界は進む。
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マサルは帰り道、
来年のカレンダーを思い浮かべる。
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シンジは薬のストックを確認する。
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アキラは新しい仕事の予定を見る。
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ユウスケはトレーニング計画を立てる。
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それぞれの“選択”が、
静かに積み重なっていく。
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ナオトは最後に言う。
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「正解なんかない」
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「でも選んだもんが現実や」
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その言葉が夜に溶けていく。
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そして物語は、
年の終わりへ向かう。
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第65話「年の瀬」へ続く。




