第62話「生活」
十月。
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朝晩が少し冷えてきた。
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季節は確実に進んでいる。
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その中で、彼らの生活もまた形を変えていた。
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マサルは職場と家の往復が完全に定着していた。
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義足の調整にも慣れ、
階段の昇降も問題なくこなせるようになっていた。
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それでも油断はできない。
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疲労が溜まると、
動きがわずかに乱れる。
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その“わずか”を見逃さない生活だった。
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シンジは病院の外来に通いながら、
日常生活を維持していた。
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朝起きる時間。
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食事の内容。
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服薬。
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すべてが管理の対象になっていた。
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自由ではない。
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しかし崩れてもいない。
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その中間で生きていた。
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アキラは職場で後輩を持つようになっていた。
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教える立場。
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自分の経験を言葉にする機会が増えた。
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それは少しだけ誇らしかった。
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ユウスケは身体の変化を維持していた。
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大会後の緩みはあったが、
完全には崩れていない。
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再びジムへ通う習慣が戻っている。
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ナオトは変わらない。
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ただ時々、
全員の状況を確認する。
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それ以上は介入しない。
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夜。
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喫茶店。
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静かなテーブル。
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以前のような重さはない。
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ただの会話。
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マサルが言う。
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「仕事って、こんなもんやったんやな」
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アキラが笑う。
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「慣れると普通やで」
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ユウスケが続ける。
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「普通が一番しんどかったりするけどな」
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シンジは静かに頷く。
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「でもそれが一番安定してる」
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誰も否定しない。
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それぞれ経験してきたからだ。
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ナオトが言う。
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「生活ってのはな」
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「派手さやなくて継続や」
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「続くことが一番強い」
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その言葉に全員が少し黙る。
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外では車の音。
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遠くの駅。
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日常の音。
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特別ではない音。
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しかしそれが今の彼らの世界だった。
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マサルは帰り道で空を見上げる。
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雲は低い。
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だが安定している。
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シンジは薬を確認する。
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アキラは明日の資料を思い出す。
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ユウスケはジムの予約を入れる。
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それぞれの“生活”。
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それは劇的ではない。
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しかし崩れてもいない。
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その状態が続いている。
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ナオトはそれを見て思う。
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「壊れないことは、治ることとは違う」
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「でもそれでもええ」
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その違いを受け入れた先に、
今の彼らがいる。
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そして次に訪れるのは、
過去と向き合う“静かな記憶”だった。
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第63話「記憶」へ続く。




