第59話「結果」
七月。
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夏が戻ってきていた。
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湿った熱気。
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蝉の声。
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夜になっても下がらない気温。
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それぞれの“選択”が、
形になって現れ始める時期だった。
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マサルは職場での評価が少しずつ変わっていた。
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最初は補助作業だけだった。
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今はデータ入力や簡単な管理業務も任されている。
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遅い。
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しかし確実だった。
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「できる人間」としてではなく、
「続けられる人間」として見られ始めていた。
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それが何よりの変化だった。
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シンジは通院を続けていた。
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数値は安定している。
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だが油断はできない。
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医師の言葉は変わらない。
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「再飲酒だけは避けてください」
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それが唯一の条件。
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その言葉の重さは、
以前より増していた。
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アキラは職場で小さなプロジェクトを任された。
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初めてのリーダー的役割。
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緊張はある。
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しかし逃げないと決めていた。
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ユウスケは大会に向けて減量を続けていた。
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体は仕上がりつつある。
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だが同時に、
精神的な揺れも出始めていた。
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ナオトは全員の状態を把握していた。
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ただし介入はしない。
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必要な時だけ動く。
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その距離感を保っていた。
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月末。
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小さな集まり。
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喫茶店。
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いつもの場所。
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だが空気は以前と違う。
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安定している。
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マサルが言う。
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「俺、やっと“普通の仕事”って感じになってきた」
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アキラが頷く。
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「こっちも少しずつやな」
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ユウスケは少し笑う。
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「俺は逆にしんどい時期や」
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減量。
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孤独。
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プレッシャー。
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それでも続けている。
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シンジは静かに言う。
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「俺は毎日が綱渡りや」
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誰も否定しない。
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それが現実だからだ。
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ナオトが言う。
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「結果ってさ」
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「良い悪いじゃなくて」
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「積み重ねやな」
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その言葉に全員が少し黙る。
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外は夕立の気配。
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遠くで雷が鳴る。
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アキラはスマホを見る。
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プロジェクトの進行状況。
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ユウスケはトレーニング記録。
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マサルは勤務評価のメモ。
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シンジは診察予約。
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それぞれの“結果”がそこにある。
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良くも悪くも、
過去の延長線上にあるもの。
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しかし完全な終わりではない。
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むしろ途中だった。
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ナオトは立ち上がる。
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「そろそろ帰るか」
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誰も引き止めない。
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それぞれの場所へ戻る時間だった。
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外へ出る。
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雨上がり。
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空気が少し軽い。
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マサルはゆっくり歩く。
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シンジはバス停へ向かう。
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アキラは電車へ。
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ユウスケはジムへ。
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それぞれの“結果”の中へ戻っていく。
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ナオトはその背中を見送る。
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そして小さく呟く。
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「これが現実やな」
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崩壊は終わった。
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しかし物語は続いている。
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次に訪れるのは、
それぞれの人生が“定着”する時期だった。
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第60話「定着」へ続く。




