第58話「分岐」
六月。
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梅雨入り。
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空は重く、
雨は止んでは降りを繰り返していた。
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その曖昧さが、
今の彼らの状態に似ていた。
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マサルは新しい職場の説明会に参加していた。
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障がい者雇用枠。
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事務補助。
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以前の自分とは違う仕事。
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だが現実的だった。
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「できること」を選ぶということ。
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それは諦めではない。
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選択だった。
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シンジは外来診察の日だった。
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肝機能は安定している。
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しかし医師は強調する。
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「油断すれば一気に崩れます」
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その言葉は毎回同じだった。
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しかし意味は毎回違って感じられた。
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アキラは職場で昇格の話が出ていた。
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小さな責任の積み重ね。
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しかし心のどこかで迷いがある。
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「このままでいいのか」
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ユウスケはジムで大会の話を持ちかけられていた。
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本格的なフィジーク大会。
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出るかどうか。
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それは人生の分岐だった。
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ナオトは全員の動きを見ていた。
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何も決めない。
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ただ繋ぐ。
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それが役割だった。
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雨の日。
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喫茶店。
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全員が集まる。
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マサル。
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シンジ。
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アキラ。
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ユウスケ。
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ナオト。
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久しぶりに全員が揃う。
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空気は以前より穏やかだった。
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しかし重さもある。
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ナオトが言う。
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「そろそろ分かれていく時期かもしれんな」
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誰も驚かない。
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むしろ自然だった。
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マサルが言う。
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「俺はこのまま仕事覚えるわ」
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シンジが続ける。
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「俺は治療続ける」
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アキラ。
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「俺は今の会社でやる」
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ユウスケは少し迷いながらも言う。
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「大会、出る」
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それぞれ違う方向。
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分岐。
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ナオトは頷く。
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「それでええ」
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「バラバラになるんちゃう」
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「それぞれ進むだけや」
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沈黙。
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しかし不安はない。
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奇妙な安定があった。
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過去のような依存ではない。
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今は自立だった。
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外に出る。
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雨は弱くなっている。
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マサルは傘を持ち直す。
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シンジは病院へ戻るバスに乗る。
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アキラは帰宅し資料を開く。
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ユウスケはジムへ向かう。
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それぞれ別方向。
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しかし同じ雨の中。
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ナオトはそれを見送る。
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そして思う。
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「終わりじゃない」
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「始まりでもない」
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「ただの継続や」
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その言葉がこの物語の核心だった。
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河合町ソールズ。
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崩壊した過去。
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しかし消えない関係。
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そして次に訪れるのは、
それぞれの人生が試される“結果”の時期だった。
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第59話「結果」へ続く。




