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Forever Local」  作者: こうた
第六章「終わりの始まり」

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56/82

第56話「それぞれの春」

四月。



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桜が咲き始めていた。



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満開ではない。



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それでも確かに春だった。



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マサルは新しいリハビリ施設に通い始めていた。



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以前より負荷は高い。



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歩行距離。



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階段訓練。



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義足の調整。



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汗がにじむ。



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何度も転びそうになる。



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それでも続ける。



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理由は単純だった。



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「歩きたい」ではない。



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「戻りたい」でもない。



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ただ、


「止まりたくない」。



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それだけだった。



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同じ頃。



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シンジは退院に向けた最終調整に入っていた。



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肝硬変。



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依存症。



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完全な回復ではない。



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しかし状態は安定していた。



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医師は言う。



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「今の生活を維持できれば、時間は稼げます」



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時間。



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それが今の全てだった。



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アキラは新しい職場に慣れ始めていた。



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資格を活かした仕事。



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遅いスタート。



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だが確実な一歩。



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若い同僚の中で、


最初は浮いていた。



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しかし今は少しずつ馴染んでいる。



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ユウスケはジムで身体が変わり始めていた。



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体重は落ち、


筋肉がつき、


表情も少し変わった。



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鏡の前で立つ時間が増えた。



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以前は避けていた視線。



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今は向き合っている。



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ナオトは変わらない。



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ただ見守っている。



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連絡役。



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繋ぎ役。



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それが今の役割だった。



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夜。



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小さな集まり。



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喫茶店。



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また同じメンバーが集まる。



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以前のような騒がしさはない。



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代わりに静けさがある。



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マサルが言う。



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「俺、まだ走れんけど」



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「歩くのは慣れてきた」



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ユウスケが笑う。



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「十分やろ」



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アキラが続ける。



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「俺もまだ途中や」



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シンジは少しだけ笑う。



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「俺は毎日が勝負や」



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それぞれ違う“今”。



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だが重なっている。



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ナオトが言う。



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「昔は終わった」



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「でも今は続いてる」



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誰も否定しない。



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その通りだった。



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帰り道。



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桜の下。



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風が吹く。



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花びらが舞う。



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マサルは立ち止まる。



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義足に手を添える。



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空を見る。



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昔の自分がいた場所。



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そこには戻れない。



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だが、


今いる場所は悪くないと思えた。



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その頃。



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遠くで、


シンジの携帯が鳴る。



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医師からの確認連絡。



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「状態安定」



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短い一文。



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それだけで十分だった。



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春。



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それぞれの再生は、


まだ途中だった。



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完全な回復ではない。



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しかし崩壊でもない。



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その曖昧な場所で、


彼らは生きていた。



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そして物語は次へ進む。



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「過去」と「現在」が交差する、


最後の段階へ。



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第57話「残響」へ続く。

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