第55話「再会」
三月。
---
風が少しだけ柔らかくなっていた。
---
---
冬が終わりかけている。
---
---
その日、
マサルは久しぶりに外へ出ていた。
---
---
義足の歩行訓練ではない。
---
---
私的な外出だった。
---
---
リハビリ施設の許可を得ての短時間。
---
---
駅前。
---
---
人が多い。
---
---
自分だけ違う速度で動いている気がする。
---
---
ゆっくり。
---
---
慎重に。
---
---
それでも歩く。
---
---
待ち合わせ場所は小さな喫茶店だった。
---
---
窓の多い店。
---
---
昔は来たことがない場所。
---
---
ナオトからの提案だった。
---
---
「一回ちゃんと会おうや」
---
---
誰と会うのかは分かっていた。
---
---
シンジ。
---
---
そしてユウスケ。
---
---
アキラも来る予定だった。
---
---
店に入る。
---
---
静かだった。
---
---
午後の光。
---
---
奥の席。
---
---
すでに三人がいた。
---
---
アキラ。
---
---
ユウスケ。
---
---
ナオト。
---
---
少し遅れてシンジが入ってくる。
---
---
杖を使っている。
---
---
以前とは違う。
---
---
痩せている。
---
---
だが目は死んでいない。
---
---
全員が揃う。
---
---
しばらく誰も話さない。
---
---
空気が重い。
---
---
最初に口を開いたのはナオトだった。
---
---
「ようやくやな」
---
---
それだけだった。
---
---
アキラは苦笑する。
---
---
「こんな形で再会するとは思わんかった」
---
---
ユウスケが続く。
---
---
「まあ、生きてるだけええやろ」
---
---
シンジは少し笑う。
---
---
「俺はギリやけどな」
---
---
マサルはゆっくり座る。
---
---
義足が少し軋む。
---
---
その音が妙に現実的だった。
---
---
ナオトが言う。
---
---
「昔の話ばっかりするつもりはない」
---
---
「でも、一回区切りつけようと思ってな」
---
---
沈黙。
---
---
誰も反論しない。
---
---
それぞれに“区切り”が必要だった。
---
---
アキラが言う。
---
---
「俺、やっと資格取れたけどさ」
---
---
「まだスタートやねん」
---
---
ユウスケが頷く。
---
---
「俺も体作り始めただけやしな」
---
---
マサルは自分の足を見る。
---
---
「俺は、まだ戻れてない」
---
---
シンジは少し間を置いて言う。
---
---
「俺はまだ終わってない」
---
---
その言葉は重かった。
---
---
しかし希望でもあった。
---
---
完全に終わった者はいない。
---
---
形は違えど、
それぞれ続いている。
---
---
ナオトはゆっくり言う。
---
---
「昔みたいには戻らん」
---
---
「でも、これからは選べるやろ」
---
---
選ぶ。
---
---
その言葉が残る。
---
---
酒を飲むか。
---
---
前に進むか。
---
---
壊れるか。
---
---
直すか。
---
---
それは今の彼らにしか決められない。
---
---
外に出る。
---
---
春の風。
---
---
少し暖かい。
---
---
マサルは一歩ずつ歩く。
---
---
義足。
---
---
しかし確かに前へ。
---
---
アキラは資格証をカバンに入れる。
---
---
ユウスケはジムへ向かう。
---
---
シンジは病院へ戻る。
---
---
ナオトはそれを見送る。
---
---
それぞれ違う方向へ。
---
---
それでも、
同じ場所から出発している。
---
---
河合町ソールズ。
---
---
崩壊したはずの名前。
---
---
しかしまだ消えていない。
---
---
形を変えただけだった。
---
---
そして物語は、
“終わり”ではなく“継続”へ向かう。
---
---
第56話「それぞれの春」へ続く。




