第54話「通知」
二月。
---
空気はまだ冷たい。
---
---
アキラは朝からスマホを見ていた。
---
---
試験結果の通知日。
---
---
時間は午前九時。
---
---
何度も画面を更新する。
---
---
表示は変わらない。
---
---
まだ。
---
---
まだ来ない。
---
---
コーヒーが冷めていく。
---
---
心拍が少し速い。
---
---
落ち着かない。
---
---
三十七歳。
---
---
人生の再起をかけた試験。
---
---
もしダメなら、
もう一度やり直すには時間が必要になる。
---
---
そう思うと余計に重い。
---
---
午前九時十二分。
---
---
通知。
---
---
メール。
---
---
件名。
---
---
「合否結果のお知らせ」
---
---
指が止まる。
---
---
一呼吸。
---
---
開く。
---
---
画面を読む。
---
---
数秒。
---
---
いや、
もっと長く感じた。
---
---
そして理解する。
---
---
合格。
---
---
合格。
---
---
その文字だけが頭に残る。
---
---
アキラは動かない。
---
---
現実感がない。
---
---
しばらくして、
ゆっくり息を吐く。
---
---
ようやく手が震え始める。
---
---
遅い。
---
---
三十七歳。
---
---
遅すぎるかもしれない。
---
---
それでも一歩進んだ。
---
---
その意味が初めて少しだけ分かった。
---
---
すぐにグループLINEを開く。
---
---
アキラ。
---
---
> 受かった
---
---
数秒後。
---
---
ナオト。
---
---
> おめでとう
---
---
ユウスケ。
---
---
> やるやん
---
---
短い。
---
---
しかし十分だった。
---
---
その夜。
---
---
河合町ソールズ。
---
---
久しぶりに少しだけ明るい空気が流れる。
---
---
居酒屋ではない。
---
---
誰も酒を飲んでいない。
---
---
ナオトの提案だった。
---
---
「今日は祝いはノンアルでええやろ」
---
---
アキラは笑う。
---
---
久しぶりの笑顔だった。
---
---
ユウスケも少しだけ柔らかい顔をしている。
---
---
会話はぎこちない。
---
---
だが悪くない。
---
---
マサルはリハビリ帰りで遅れて参加。
---
---
義足でゆっくり歩く。
---
---
それでも来た。
---
---
それが大きかった。
---
---
シンジはまだ入院中だが、
ナオトが代わりに動画通話を繋ぐ。
---
---
画面の向こうのシンジは、
以前より少し痩せている。
---
---
それでも生きている。
---
---
全員が揃う。
---
---
完全ではない。
---
---
それでも、
欠けたままの集合だった。
---
---
ナオトが言う。
---
---
「昔みたいには戻らん」
---
---
「でも、これでええんちゃうか」
---
---
誰も否定しない。
---
---
否定できない。
---
---
それぞれが失ったものを抱えている。
---
---
それでも、
前に進むしかない。
---
---
夜。
---
---
アキラは帰宅後、
資格の次の勉強計画を立てていた。
---
---
ユウスケはジムの契約を更新した。
---
---
マサルはリハビリメニューを増やした。
---
---
シンジは医師の管理下で治療を続けている。
---
---
小さな変化。
---
---
だが確実な変化。
---
---
河合町ソールズ。
---
---
崩壊したグループ。
---
---
しかし完全には消えていない。
---
---
形を変えて続いている。
---
---
そして春。
---
---
それぞれの人生に、
もう一度だけ分岐点が訪れる。
---
---
それは救いか、
それとも再びの崩壊か。
---
---
まだ誰にも分からない。
---
---
第55話「再会」へ続く。




