第52話「最後通告」
十二月。
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冬は一気に深くなっていた。
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病院の窓は白く曇る。
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外の世界が遠い。
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シンジはベッドに横たわっていた。
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身体は軽くない。
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むしろ重い。
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しかし以前のような酒の重さではない。
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もっと別のものだった。
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生きているだけで負担になる感覚。
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午前。
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医師の回診。
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表情は以前よりさらに硬い。
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説明は短かった。
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「現状では非常に危険です」
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「このまま飲酒を再開すれば、急変の可能性があります」
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一度止める。
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二度と戻さない。
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それが条件だった。
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そして医師は続ける。
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「正直に言います」
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「これが最後の通告です」
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最後。
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その言葉が刺さる。
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何度も聞いてきた。
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ケンジの事件。
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マサルの病気。
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タカシの裁判。
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それぞれが「最後」を経験してきた。
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そして今、
自分にも来た。
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医師は静かに言う。
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「次に同じことがあれば、命の保証はできません」
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保証。
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それがないということ。
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つまり、
生きられるかどうかは運ではない。
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自分の選択だということ。
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シンジは頷く。
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しかし心は追いつかない。
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理解はできる。
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だが実行は別だ。
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午後。
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ナオトが来る。
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少し痩せたシンジを見て言葉を失う。
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「ほんまにやばいやん」
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シンジは笑う。
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「今さらやろ」
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ナオトは椅子に座る。
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しばらく沈黙。
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そして言う。
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「やめるしかないやろ」
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シンジは天井を見る。
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「やめれると思うか?」
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ナオトは答えない。
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それが正解だった。
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簡単ではない。
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意思の問題ではない。
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長年積み重ねた依存。
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身体の反応。
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精神の逃げ場。
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全部が絡んでいる。
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夕方。
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病室。
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一人。
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窓の外は早く暗くなる。
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冬の夕暮れ。
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街の光が点灯する。
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その光の中に、
自分の未来はない気がした。
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その時。
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スマホが鳴る。
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会社からの連絡。
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休職延長の確認。
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短い文。
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事務的。
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それが逆に現実だった。
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自分はもう“普通”ではない。
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社会の流れから外れている。
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夜。
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ナオトにメッセージを送る。
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短い。
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> もう無理かもしれん
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すぐ返信は来ない。
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数分後。
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> 無理ちゃう ただ、変えるだけや
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変える。
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その言葉が重い。
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今まで何度も聞いた。
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でも一度も変えられなかった。
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その違いが、
今の結果だった。
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シンジはスマホを置く。
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目を閉じる。
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そして初めて思う。
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本当に終わるのかもしれない、と。
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ただしそれは死ではない。
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生きながら終わるという意味だった。
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河合町ソールズ。
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残された者たちはまだ生きている。
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だがそれぞれが、
別の「終わり」に近づいていた。
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そして新年を前に、
アキラの資格試験の日が近づく。
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それは唯一、
まだ未来に繋がる可能性だった。
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第53話「試験日」へ続く。




