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Forever Local」  作者: こうた
第六章「終わりの始まり」

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第50話「肝臓」

十月。



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秋。



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空気が少し冷たくなっていた。



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だがシンジの身体は、


季節の変化を感じる余裕すら失っていた。



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朝。



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アパート。



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目が覚める。



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身体が重い。



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異常なほど重い。



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最近ずっとそうだった。



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疲労感。



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吐き気。



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食欲不振。



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倦怠感。



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何もしたくない。



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何もできない。



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それでも酒だけは飲む。



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飲まないと落ち着かない。



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飲むと少し楽になる。



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そう思っていた。



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しかし実際は違う。



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さらに身体を壊していた。



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洗面所へ向かう。



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鏡を見る。



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そして気付く。



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顔色がおかしい。



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黄色い。



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目も黄色い。



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最初は気のせいだと思った。



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だが違う。



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何日も続いている。



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黄疸。



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本人は知らなかった。



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肝臓が悲鳴を上げていた。



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昼。



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通院日。



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依存症外来。



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診察。



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医師が顔を見る。



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すぐ異変に気付く。



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血液検査。



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追加検査。



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結果。



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医師の表情が変わる。



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重い。



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嫌な予感しかしない。



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診察室。



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沈黙。



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そして医師が言う。



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「肝機能がかなり悪化しています」



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シンジは黙る。



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医師は続ける。



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「入院が必要です」



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またその言葉だった。



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入院。



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河合町ソールズで何度聞いただろう。



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ケンジ。



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マサル。



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そして今度は自分。



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医師は検査結果を説明する。



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数値。



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肝障害。



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アルコール性肝炎。



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このまま飲酒を続ければ危険。



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命に関わる。



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シンジは初めて恐怖を感じる。



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本当の恐怖。



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暴行事件の時とは違う。



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逮捕の恐怖とも違う。



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死ぬかもしれない。



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それが現実になった。



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夕方。



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病院のベッド。



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入院。



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人生二度目。



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いや、


初めてのようなものだった。



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病気による入院。



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酒による入院。



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情けなかった。



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心底。



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隣のベッドの患者は六十代だった。



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肝硬変。



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長年の飲酒。



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似たような経緯。



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シンジは話を聞く。



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そして思う。



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未来の自分かもしれない。



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いや、


そこまで生きられる保証もない。



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夜。



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病室。



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静かだった。



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スマホを見る。



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グループLINE。



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動いていない。



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昔は毎日通知が来ていた。



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飲み会。



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パチンコ。



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居酒屋。



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くだらない話。



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それが楽しかった。



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本当に。



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しかし今は違う。



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一人は刑務所。



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一人は実刑確定。



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一人は義足。



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自分は肝臓を壊した。



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そして事故で人を死なせた仲間もいる。



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静かだった。



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あまりにも静かだった。



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その時。



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ナオトからメッセージが届く。



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> 入院したって聞いた





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> 大丈夫か





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シンジはしばらく画面を見る。



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返事を書く。



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消す。



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また書く。



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そして送る。



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> 大丈夫ちゃうわ





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短い。



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だが本音だった。



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初めてだった。



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強がらなかったのは。



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病院の窓の外。



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夜景。



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街の灯り。



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そこに昔の自分はいない。



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もう戻れない。



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そのことだけは分かっていた。



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一方、


アキラは資格試験を受けようとしていた。



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ユウスケも少しずつ痩せ始めていた。



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遅いかもしれない。



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それでも前へ進もうとしている。



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河合町ソールズ。



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壊れた者たち。



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だが、


全員が終わったわけではない。



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まだ人生は続いている。



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ただし、


その人生が長く続く保証はない。



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そして冬。



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シンジの病状はさらに悪化する。



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医師はついに、


ある言葉を口にする。



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「肝硬変」



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その診断が、


彼の運命を決定づけることになる。



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第51話「余命」へ続く。

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