第48話「アルコール依存」
八月。
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真夏。
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照りつける日差し。
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蝉の声。
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暑さ。
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街は夏休みだった。
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しかしシンジの部屋だけは違った。
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カーテンは閉じられている。
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エアコンもついていない。
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空き缶。
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ペットボトル。
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コンビニ袋。
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散らかった部屋。
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異臭。
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その中心にシンジはいた。
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三十七歳。
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独身。
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一人暮らし。
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暴行事件の後、
酒をやめようとした。
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本気だった。
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缶ビールを捨てた。
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居酒屋も避けた。
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河合町ソールズとの集まりも断った。
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しかし、
長年の依存は簡単ではなかった。
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数日後。
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一本だけ。
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そう思った。
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一本で終わるはずだった。
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だが終わらない。
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一本が二本になる。
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二本が五本になる。
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五本が十本になる。
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そして元に戻る。
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いや、
以前より悪化していた。
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酒を飲む理由が変わったからだ。
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昔は楽しいから飲んでいた。
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今は苦しいから飲んでいる。
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不安。
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後悔。
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孤独。
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それらを消すために飲む。
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酒は一時的に忘れさせる。
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しかし問題は消えない。
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翌日、
さらに大きくなって戻ってくる。
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悪循環だった。
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会社でも問題が起きる。
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遅刻。
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欠勤。
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集中力低下。
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上司に注意される。
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しかし改善しない。
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できない。
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もう酒が中心になっていた。
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ある夜。
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午前三時。
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シンジは目を覚ます。
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汗。
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動悸。
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震え。
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異常だった。
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冷蔵庫へ向かう。
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酒を飲む。
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震えが止まる。
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少し落ち着く。
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その瞬間、
理解してしまう。
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依存している。
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完全に。
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怖くなる。
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だが、
その恐怖を消すためにまた飲む。
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数週間後。
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ナオトに会社から連絡が入る。
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共通の知人だった。
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「シンジ最近やばいぞ」
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短い言葉。
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だが十分だった。
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ナオトは心配になる。
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休日。
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シンジのアパートを訪ねる。
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インターホン。
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反応なし。
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電話。
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出ない。
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何度も鳴らす。
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しばらくして扉が開く。
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シンジが立っていた。
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顔色が悪い。
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痩せている。
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目の焦点も合っていない。
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ナオトは驚く。
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別人だった。
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ほんの一年ほど前まで、
元気だった男とは思えない。
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部屋へ入る。
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空き缶の山。
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酒臭い空気。
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異常だった。
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ナオトが言う。
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「病院行こう」
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シンジは笑う。
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力なく。
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「大丈夫や」
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全く大丈夫ではなかった。
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だが本人だけが認めない。
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いや、
認めたくないのかもしれない。
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ナオトは説得する。
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一時間。
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二時間。
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しかしシンジは首を振る。
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結局その日は帰るしかなかった。
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アパートを出た後、
ナオトは空を見上げる。
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真夏の青空。
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眩しい。
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だが気持ちは重かった。
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ケンジ。
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タカシ。
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マサル。
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そしてシンジ。
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仲間が次々に壊れていく。
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何もできない。
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その無力感が苦しかった。
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そして九月。
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シンジは会社を休職する。
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医師の診断。
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アルコール依存症。
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正式な診断だった。
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しかしそれでも、
彼の転落はまだ終わっていない。
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むしろ、
ここからが本当の地獄だった。
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河合町ソールズ。
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十代の頃、
彼らは永遠を信じていた。
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だが現実は違う。
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人は少しずつ壊れる。
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そして気付いた時には、
取り返しがつかない場所まで来ていることがある。
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次に訪れるのは、
タカシの裁判。
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そして、
彼の人生を決定づける判決の日だった。
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第49話「判決」へ続く。




