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Forever Local」  作者: こうた
第五章「失われた時間」

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第47話「失われるもの」

七月下旬。



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手術当日。



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午前五時。



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病室。



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マサルは目を覚ましていた。



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ほとんど眠れなかった。



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眠れるはずがない。



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今日、


人生が変わる。



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決定的に。



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窓の外を見る。



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夏の朝。



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空は晴れていた。



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蝉が鳴いている。



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普通の朝。



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だが自分にとっては特別な朝だった。



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最後になる。



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今の自分として迎える朝は。



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布団の下を見る。



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右足。



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まだある。



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まだ動く。



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まだそこにある。



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しかし数時間後には失われる。



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不思議だった。



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長年当たり前にあったものが、


突然なくなる。



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そんなことがあるのか。



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看護師が来る。



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準備。



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点滴。



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説明。



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手術着。



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全てが進んでいく。



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止まらない。



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午前八時。



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ナオトが来る。



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仕事前だった。



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短い面会。



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二人とも何を話せばいいか分からない。



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励ましの言葉は軽すぎる。



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慰めの言葉も違う。



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だから沈黙する。



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しばらくして、


マサルが言う。



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「俺な」



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「後悔ばっかりや」



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ナオトは黙って聞く。



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「もっと早く病院行っとけば」



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「もっと早く酒やめとけば」



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「もっと早く気付いてたら」



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苦笑する。



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「全部もっと早くや」



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ナオトは窓の外を見る。



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そして静かに答える。



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「俺もそうや」



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事故の日。



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ケンジ。



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資格。



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勉強。



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人生。



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後悔ならいくらでもある。



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二人とも同じだった。



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違う形で。



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違う結果で。



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だが後悔の中にいる。



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午前九時。



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手術室へ向かう時間。



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ベッドが動く。



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病室を出る。



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廊下。



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天井。



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照明。



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ゆっくり流れていく。



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映画みたいだと思った。



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他人事のように。



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手術室前。



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医師。



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看護師。



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説明。



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確認。



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そして扉が開く。



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冷たい空気。



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機械音。



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現実だった。



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ベッドが中へ入る。



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マサルは最後に思う。



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二十年前。



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高校時代。



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河合町ソールズ。



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毎日笑っていた。



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未来なんて無限だと思っていた。



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あの頃の自分に言っても信じないだろう。



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酒で人生を壊す。



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足を失う。



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そんな未来を。



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麻酔が始まる。



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意識が薄れる。



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天井がぼやける。



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音が遠くなる。



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そして暗闇。



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数時間後。



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目を覚ます。



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ぼんやりした視界。



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天井。



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病室だった。



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手術は終わっていた。



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生きている。



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それは分かる。



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しかし。



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恐ろしくて確認できない。



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布団を見る。



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右側。



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膨らみがない。



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現実だった。



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足は失われた。



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マサルは目を閉じる。



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涙が流れる。



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声は出ない。



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泣き叫ぶ気力もない。



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ただ涙だけが流れる。



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長い時間。



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静かに。



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誰も責められない。



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事故ではない。



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病気だった。



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そして、


長年の選択の積み重ねだった。



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夜。



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ナオトは病院へ戻る。



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病室の前で立ち止まる。



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どう声を掛ければいいのか分からない。



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結局、


何も思いつかなかった。



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扉を開ける。



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マサルは起きていた。



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二人はしばらく無言だった。



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やがてマサルが言う。



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「生きてるわ」



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それだけだった。



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ナオトは頷く。



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それだけで十分だった。



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失ったものは大きい。



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取り戻せない。



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だが生きている。



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今はそれだけだった。



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その頃。



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留置施設のタカシには、


裁判の日程が伝えられていた。



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そして、


さらに数か月後。



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河合町ソールズに、


もう一つの死が訪れる。



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それは事故でもなく、


病気でもなく、


酒そのものに飲み込まれた男の最期だった。



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第48話「アルコール依存」へ続く。

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