第44話「面会拒否」
五月下旬。
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刑務所。
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朝六時。
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ケンジはいつものように起床した。
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点呼。
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朝食。
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作業。
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決められた毎日。
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同じことの繰り返し。
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しかし最近、
心の中は落ち着いていなかった。
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事故から二年近く。
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それでも忘れる日はない。
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高橋陽斗。
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十七歳。
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未来を奪った相手。
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毎日思い出す。
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毎日後悔する。
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だが謝罪したいと思う気持ちも残っていた。
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もちろん許されるとは思っていない。
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許される資格もない。
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それでも。
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伝えたいことはあった。
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昼休み。
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担当職員から呼ばれる。
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面会や手紙に関する連絡だった。
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ケンジは少し期待した。
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被害者家族へ送った謝罪文。
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弁護士を通じて届けてもらっていた。
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何か返事が来たのだろうか。
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しかし違った。
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職員は事務的に言う。
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「ご遺族からの返答です」
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紙を受け取る。
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短い内容だった。
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要約すると一つ。
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「面会も手紙も今後受け取らない」
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それだけだった。
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ケンジはしばらく動けなかった。
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分かっていた。
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当然だと思う。
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むしろそれが普通だ。
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だが現実として突き付けられると違う。
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完全に拒絶された。
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許されない。
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一生。
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その可能性もある。
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紙を見つめる。
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何度も。
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何度も。
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文字は変わらない。
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現実も変わらない。
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事故は終わらない。
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刑期が終わっても。
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社会へ戻っても。
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ずっと続く。
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作業場へ戻る。
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手が動かない。
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集中できない。
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頭の中で同じ言葉が回る。
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「受け取らない」
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それは被害者家族の権利だった。
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当然の権利。
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ケンジは理解している。
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だが苦しかった。
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夜。
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房。
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一人。
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天井を見る。
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事故の日を思い出す。
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居酒屋。
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ビール。
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笑い声。
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「近いし大丈夫やろ」
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あの言葉。
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人生で最も重い言葉になった。
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もしあの日、
代行を呼んでいたら。
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もし車を置いて帰っていたら。
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もし誰かが止めていたら。
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考えても意味はない。
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しかし考えてしまう。
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何度も。
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何度も。
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その頃。
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病院ではマサルがリハビリを受けていた。
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足の状態は悪い。
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だが必死だった。
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初めて本気になっていた。
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怖かったからだ。
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失うことが。
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歩けなくなることが。
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タカシもまた苦しんでいた。
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留置施設。
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連日の取り調べ。
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供述。
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証拠。
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関係者。
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逃げ場はなかった。
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少しずつ全容が明らかになっていく。
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そしてアキラ。
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人生を変えようとしていた。
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資格の資料請求。
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通信講座。
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遅いかもしれない。
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それでも始めた。
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初めてだった。
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誰かに流されるのではなく、
自分で決めたことは。
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河合町ソールズ。
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同じ場所で笑っていた男たち。
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しかし今は違う。
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それぞれ別々の場所で、
別々の後悔と向き合っていた。
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そして夏が近づく。
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そこで起きるのは、
グループの中でも最も悲しい出来事の一つ。
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マサルの病状は、
まだ悪化を続けていた。
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第45話「壊死」へ続く。




