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Forever Local」  作者: こうた
第五章「失われた時間」

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第41話「取り残された男」

四月下旬。



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雨。



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アキラは車の中にいた。



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コンビニの駐車場。



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エンジンは切っている。



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ワイパーだけが動く。



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ぼんやりとフロントガラスを流れる雨を見ていた。



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三十七歳。



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独身。



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恋人なし。



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結婚歴なし。



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資格なし。



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持ち家なし。



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特別な趣味もない。



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改めて並べると、


何もなかった。



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もちろん仕事はしている。



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借金もない。



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犯罪もしていない。



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健康でもある。



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世間から見れば普通の人間だった。



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しかし、


アキラ自身はそう思えなかった。



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同級生のSNSを見る。



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家族旅行。



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子供の入学式。



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新築住宅。



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昇進。



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転職成功。



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資格合格。



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そんな投稿ばかり。



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昔は笑って見ていた。



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だが最近は違う。



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胸が苦しくなる。



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焦り。



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嫉妬。



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後悔。



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色々な感情が混ざる。



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スマホを閉じる。



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ため息。



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そして気付く。



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自分は何も積み上げていない。



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二十代。



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飲み会。



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パチンコ。



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居酒屋。



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地元。



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三十代。



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飲み会。



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パチンコ。



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居酒屋。



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地元。



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ほとんど同じだった。



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何かを努力した記憶が少ない。



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だから今、


手元に何も残っていない。



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夜。



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久しぶりに河合町ソールズの数人が集まる。



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いつもの居酒屋。



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しかし人数は少ない。



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ナオト。



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ユウスケ。



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アキラ。



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三人だけ。



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マサルは入院中。



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ケンジは刑務所。



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タカシは連絡が少ない。



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シンジは酒を控えている。



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自然と集まりも減っていた。



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席につく。



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注文する。



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昔なら大騒ぎだった。



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今は静かだ。



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沈黙が増えた。



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年齢のせいではない。



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現実を見始めたからだ。



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ユウスケが言う。



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「最近婚活やめた」



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アキラが驚く。



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「マジか」



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「疲れた」



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それだけだった。



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ナオトは何も言わない。



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ユウスケの気持ちが分かる。



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アキラの焦りも分かる。



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自分も同じ場所にいたからだ。



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十年前なら。



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五年前なら。



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そう考えてしまう。



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しかし時間は戻らない。



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その時。



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店の入口が開く。



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若い客たちが入ってくる。



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二十代前半。



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仕事帰りらしい。



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笑っている。



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未来がある。



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アキラは思わず見てしまう。



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昔の自分たちのようだった。



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違うのは、


あの若者たちはまだ間に合うことだった。



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何にでもなれる。



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資格も。



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転職も。



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結婚も。



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挑戦も。



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まだ可能性がある。



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アキラはグラスを見る。



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残り少ないビール。



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胸が苦しい。



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自分は何をしていたのだろう。



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その夜。



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帰宅後。



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アキラは珍しくパソコンを開く。



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資格。



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転職。



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副業。



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色々検索する。



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初めてだった。



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こんなことをしたのは。



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しかし同時に思う。



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遅すぎるのではないか。



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今さら。



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三十七歳で。



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そんな考えが頭をよぎる。



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だが画面を閉じなかった。



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少なくとも、


閉じる気にはなれなかった。



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一方その頃。



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タカシは倉庫街で、


人生最大の危機に近づいていた。



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警察の内偵捜査は終盤。



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関係者の逮捕状も準備されている。



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摘発の日が決まりつつあった。



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そして誰も知らない。



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数週間後の早朝。



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河合町ソールズのグループLINEに、


衝撃的なニュースが流れることを。



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第42話「夜明け前のインターホン」へ続く。

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