第4話「男気」
夜が深くなるほど、彼らのテンションは上がっていく。
それは酒のせいでもあり、習慣のせいでもあった。
止まる理由がない時間は、加速しやすい。
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カラオケ店を出たあと、誰も「帰る」とは言わない。
その言葉は、このグループでは禁句に近かった。
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ケンジが笑う。
「まだいけるやろ?」
タカシが即答する。
「余裕やな」
シンジも頷く。
ユウスケは無言でついてくる。
アキラは少し遅れて歩く。
ナオトも同じように歩く。
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誰かが止まらない限り、止まらない。
それが暗黙のルールだった。
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コンビニに寄る。
追加の酒。
追加のつまみ。
追加の時間。
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レジ前でケンジが言う。
「こういうのが男気やねん」
その言葉に、店員は何も反応しない。
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ナオトはその言葉を聞きながら思う。
男気とは何なのか。
金を出すことか
無理をすることか
断らないことか
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答えは曖昧なまま、言葉だけが強くなっていく。
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外に出ると、タカシがふざけたように言う。
「俺らってさ、ほんま仲ええよな」
ケンジが笑う。
「当たり前やろ」
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その瞬間、ナオトは少しだけ違和感を覚える。
仲がいいとは何だろう。
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本当にそうなのか。
それとも、そう思い込んでいるだけなのか。
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しかしその疑問はすぐに流される。
誰かが笑うと、空気はそれに合わせて動くからだ。
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ケンジが突然言う。
「俺さ、昔から思っててんけど」
全員が一瞬だけ黙る。
珍しく“真面目な入口”だった。
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「俺らってさ、地元で一番ええグループやろ」
タカシがすぐに笑う。
「そらそうやろ」
シンジも続く。
「他におらんしな」
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ユウスケも小さく笑う。
アキラも頷く。
ナオトも、遅れて頷く。
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その瞬間、「正しさ」が作られる。
誰も証明していないのに、そう決まる。
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ケンジが続ける。
「だから男気やねん」
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男気。
またこの言葉だ。
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ナオトは思う。
この言葉は便利すぎる。
反論を封じる
迷いを消す
選択肢を減らす
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そして何より、
「自分たちは正しい」と錯覚させる。
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コンビニの駐車場。
エンジンの音。
酒の残り。
夜風。
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すべてが混ざる。
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タカシが笑いながら言う。
「でもさ、運転どうする?」
一瞬、空気が止まる。
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誰もすぐには答えない。
しかし沈黙は短い。
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ケンジが笑う。
「近いしええやろ」
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その一言で終わる。
議論ではない。
確認でもない。
ただの決定。
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ナオトは一瞬だけ何かを言いかける。
しかし言葉は出ない。
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出ない理由は単純だった。
ここで止める役割が、自分にはないと思っているからだ。
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「男気やな」
誰かがそう言う。
笑いが起きる。
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ナオトはその笑いを聞きながら、胸の奥が少しだけ重くなるのを感じる。
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車の鍵が回る音。
ドアが閉まる音。
エンジンの始動音。
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夜が再び動き出す。
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ケンジがハンドルを握る。
「行くぞ」
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その声は、いつもより少しだけ軽かった。
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ナオトは窓の外を見る。
街灯が流れていく。
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どこかで誰かが眠っている夜。
どこかで誰かが明日を準備している夜。
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その中を、彼らだけが少し違う方向に進んでいく。
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ナオトは思う。
この「男気」という言葉は、いつか誰かを壊す。
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しかしその時はまだ来ていない。
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だから誰も止まらない。
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そして車は、静かに夜の中へ消えていく。
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→ 第5話へ続く(「金曜の儀式」)




