第34話「判決」
十二月。
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朝から冷たい雨が降っていた。
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地方裁判所。
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今日はケンジの判決の日だった。
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事故から約一年。
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長かったようで短かった。
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しかし被害者家族にとっては、
毎日が地獄だった。
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息子は帰ってこない。
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誕生日も来た。
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文化祭も終わった。
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クリスマスも近い。
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だが陽斗はいない。
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時間だけが進んでいく。
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法廷。
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傍聴席はほぼ埋まっていた。
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報道関係者。
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地域住民。
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被害者家族。
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そしてナオト。
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再び来ていた。
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逃げたくなかった。
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最後まで見届けたかった。
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被告人席。
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ケンジは痩せていた。
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事故前より十キロ以上。
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顔色も悪い。
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目の下には深い隈。
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この一年、
毎日後悔していた。
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しかし後悔では命は戻らない。
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裁判長が入廷する。
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全員が立つ。
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静寂。
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判決が読み上げられる。
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飲酒運転。
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危険運転。
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死亡事故。
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被害者は高校生。
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将来ある若者。
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社会的影響。
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反省の有無。
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賠償。
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様々な要素が語られる。
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そして最後に、
刑が告げられる。
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実刑判決。
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法廷は静かだった。
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誰も驚かない。
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予想された結果だった。
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ケンジも俯いたまま。
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何も言わない。
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言えることなどなかった。
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判決が終わる。
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裁判長が退廷する。
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閉廷。
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全て終わった。
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いや、
正確には終わっていない。
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刑務所生活が始まる。
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被害者家族の苦しみも続く。
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賠償も続く。
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人生は続く。
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その形が変わっただけだった。
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法廷を出る。
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陽斗の母は泣いていた。
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父は支えている。
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誰も笑わない。
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勝者はいない。
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事故は全員を不幸にした。
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ナオトは裁判所の外へ出る。
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冷たい雨。
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傘を差す。
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胸が苦しい。
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ケンジが可哀想だからではない。
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陽斗の人生を思うからだ。
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十七歳。
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自分より半分も生きていない。
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それなのに未来を失った。
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その事実が重かった。
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夜。
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河合町。
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いつもの居酒屋。
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事故以来、
初めて数人が集まった。
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ナオト。
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アキラ。
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シンジ。
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ユウスケ。
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マサル。
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五人だけ。
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以前は十人近くいた。
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今は半分。
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席も空いている。
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誰も昔のようにはしゃがない。
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静かに飲む。
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そして自然と話題は判決になる。
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「終わったな」
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アキラが言う。
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誰も返事をしない。
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終わったのか。
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本当に終わったのか。
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ナオトにはそう思えなかった。
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むしろ始まった気がした。
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失った人生の重みを背負って、
残された者が生きていく時間が。
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マサルはビールを飲む。
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二杯目。
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三杯目。
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医師から止められている。
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しかし止まらない。
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シンジも飲む。
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アキラも。
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皆飲む。
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昔より静かに。
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昔より暗く。
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そしてタカシだけが来ていない。
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誰も気にしていない。
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仕事だろう。
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そう思っている。
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しかしその夜、
タカシは倉庫街にいた。
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以前より大きな仕事。
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報酬は二十万円。
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そして周囲には、
明らかに危険な人間たちがいた。
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警察に見つかれば終わる。
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そんな世界。
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タカシは知らない。
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既に警察がその組織を追っていることを。
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そして数か月後、
人生が決定的に壊れることを。
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河合町ソールズ。
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一人は刑務所へ。
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一人は闇へ。
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一人は病に蝕まれる。
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一人は酒に溺れる。
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一人は孤独に怯える。
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崩壊はまだ終わらない。
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次に待つのは、
マサルの身体に現れる異変だった。
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第35話「足の痺れ」へ続く。




