第32話「深夜の配送」
裁判から数日後。
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十月。
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夜風が冷たくなり始めていた。
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タカシは車を運転していた。
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時刻は午前一時。
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高速道路。
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助手席には黒いスポーツバッグ。
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トランクには段ボール箱。
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今回の仕事は今までと違った。
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荷物運びだけではない。
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指定された場所まで運ぶ。
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受取人へ直接渡す。
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それが条件だった。
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報酬は十万円。
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以前の倍だった。
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高すぎる。
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だから危険だった。
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だがタカシは引き受けた。
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借金はまだ残っている。
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事故以来、
精神的にも追い込まれていた。
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普通の判断ができなくなっている。
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「今回だけ。」
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またその言葉だった。
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人は何度も同じ言い訳をする。
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そして気付けば戻れなくなる。
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サービスエリア。
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タカシは車を止める。
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トイレへ向かう。
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鏡を見る。
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疲れた顔。
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目の下のクマ。
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三十六歳。
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昔ならこんな人生になるとは思わなかった。
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高校時代。
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河合町ソールズ。
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毎日遊んでいた。
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未来はずっと続くと思っていた。
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しかし今は違う。
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借金。
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違法かもしれない仕事。
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友人の死亡事故。
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人生は想像もしなかった場所へ来ていた。
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スマホが鳴る。
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佐伯だった。
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「順調か?」
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「はい」
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「余計なこと考えるな」
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「荷物は開けるな」
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短い通話。
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しかしその言葉が不気味だった。
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荷物を開けるな。
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普通の荷物なら、
そんなことは言わない。
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タカシは車へ戻る。
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トランクを見る。
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段ボール。
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ただの箱。
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しかし中身は知らない。
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知りたくない。
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知れば戻れなくなる気がした。
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いや、
既に戻れない場所まで来ているのかもしれない。
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再び車を走らせる。
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目的地は繁華街の裏路地。
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午前二時。
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指定場所に到着する。
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街灯は少ない。
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人通りもほとんどない。
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そこに数人の男が立っていた。
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黒い服。
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無表情。
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タカシは荷物を渡す。
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男は中身を確認する。
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無言。
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そして封筒を渡してくる。
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報酬だった。
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十万円。
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現金。
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税金も引かれない。
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記録も残らない。
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異常だった。
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だが金は本物だった。
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帰り道。
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タカシは封筒を握る。
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嬉しいはずだった。
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しかし違う。
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胸の奥が重い。
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不安。
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恐怖。
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罪悪感。
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色々な感情が混ざっている。
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その時、
ふとバックミラーを見る。
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後ろに一台の車。
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偶然かもしれない。
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だが気になる。
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曲がる。
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後ろも曲がる。
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心臓が強く鳴る。
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さらに曲がる。
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後ろも曲がる。
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汗が出る。
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数分後。
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後続車は別の道へ消えた。
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ただの偶然だった。
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しかしタカシの手は震えていた。
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危険な世界に足を踏み入れた。
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その実感が初めて湧いた。
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一方その頃。
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マサルは病院から帰宅していた。
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検査結果はさらに悪化。
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医師から強く警告された。
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「このままでは合併症が進みます」
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「本当に危険です」
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しかし帰宅途中、
コンビニで酒を買ってしまう。
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やめたい。
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でもやめられない。
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それはアルコール依存の入口だった。
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そしてナオト。
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資格試験の日が近づいていた。
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彼だけが、
少しずつ別の道を歩き始めている。
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だが河合町ソールズ全体で見れば、
崩壊はさらに加速していた。
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事故で一人が落ちた。
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次は借金。
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次は病気。
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そしてこの先、
さらに大きな破滅が待っている。
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第33話「結果発表」へ続く。




