第26話「消費者金融」
事故から一か月。
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河合町ソールズはほとんど集まらなくなっていた。
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あれほど毎週顔を合わせていたのに、
今はグループLINEも静かだった。
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誰も以前のように「飲もう」と言わない。
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言えない。
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ケンジの事故は、
仲間たちの中に残っていた。
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だが人間は不思議なもので、
別の問題があればそちらに意識が向く。
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そしてタカシには、
もっと切実な問題があった。
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借金だった。
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事故の前から抱えていた借金。
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返済を先延ばしにし続けた結果、
総額は百万円を超えていた。
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消費者金融。
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カードローン。
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リボ払い。
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キャッシング。
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少しずつ。
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少しずつ。
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気付けば膨らんでいた。
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その日の夜。
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タカシはアパートの部屋にいた。
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郵便受けから持ち帰った封筒を並べる。
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赤文字。
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督促状。
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支払い催告。
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最終通知。
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見慣れた封筒だった。
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しかし今回は違う。
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本当に金がない。
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給料は入った。
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だが家賃。
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光熱費。
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携帯代。
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ローン。
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そして返済。
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引かれていく。
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残る金はほとんどない。
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スマホが鳴る。
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知らない番号。
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出なくても分かる。
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借金関係だ。
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無視。
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また鳴る。
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無視。
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三回目。
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出た。
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「もしもし」
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相手は丁寧だった。
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だが内容は冷たい。
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支払い確認。
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返済相談。
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期限。
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延滞。
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事務的な言葉が続く。
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電話を切る。
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部屋は静かだった。
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冷蔵庫のモーター音だけが響く。
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タカシは缶ビールを開ける。
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一気に飲む。
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二本目。
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三本目。
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酔わなければ現実を見てしまう。
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酔えば少し忘れられる。
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そう思っている。
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しかし朝になれば、
借金は消えない。
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翌日。
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パチンコ店。
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タカシは席に座っていた。
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本来なら来てはいけない。
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金がない。
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返済しなければならない。
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それでも来ている。
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理由は単純だった。
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一発逆転を信じている。
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負けを取り返したい。
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借金を返したい。
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人生を戻したい。
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その気持ちが、
さらに深みへ引きずり込む。
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午後。
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結果。
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四万円負け。
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財布は空になる。
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ATMへ向かう。
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残高を見る。
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数字はほとんど残っていない。
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立ち尽くす。
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周囲の客は普通に歩いている。
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普通に笑っている。
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しかしタカシだけは違った。
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崖の縁に立っている。
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そして自分でも気付いている。
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もう危ない。
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本当に危ない。
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夜。
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コンビニ駐車場。
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タカシは一人で缶ビールを飲んでいた。
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以前なら、
ここに仲間がいた。
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ケンジがいた。
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皆がいた。
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しかし今はいない。
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事故が全てを変えた。
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スマホを見る。
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グループLINE。
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動いていない。
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寂しい。
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しかし、
それ以上に怖い。
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一人になると、
現実が見えるからだ。
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借金。
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将来。
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独身。
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資格なし。
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出世なし。
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三十六歳。
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何も残っていない気がした。
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その時、
スマホにメッセージが届く。
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知らない相手だった。
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内容は短い。
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> 金で困ってるなら相談乗るで
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タカシは眉をひそめる。
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誰だ。
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なぜ知っている。
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不気味だった。
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しかし同時に、
心のどこかで興味もあった。
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追い詰められた人間は、
普段なら近付かないものに手を伸ばす。
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まだ返信はしない。
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だが、
そのメッセージが、
後の人生を決定的に変えることになる。
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借金は人を追い込む。
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そして追い込まれた人間は、
正しい判断ができなくなる。
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タカシはまだ知らない。
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数か月後、
その「相談」が闇の仕事への入り口になることを。
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第27話「空白の金曜日」へ続く。




