第25話「会社の判断」
葬儀から三日後。
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月曜日。
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朝七時三十分。
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河合町の人々はいつも通り出勤していた。
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コンビニは開いている。
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信号も動いている。
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学校も始まっている。
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世界は止まらない。
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誰かの人生が終わっても。
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しかし、
ケンジの会社では違った。
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朝礼前。
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事務所には重い空気が流れていた。
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誰も大きな声を出さない。
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誰も雑談しない。
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全員が事故のことを知っていた。
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ニュース。
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ネット記事。
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地域の噂。
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全部広がっている。
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ケンジは十年以上勤めていた。
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仕事は決して優秀ではない。
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しかし長く在籍していた。
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同僚も知っている。
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酒好きなことも。
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飲み会が多いことも。
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飲酒運転をしていたことも。
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実は知られていた。
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何度も。
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何年も。
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皆見て見ぬふりをしていた。
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「そのうち事故るぞ。」
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冗談みたいに言われたこともある。
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しかし誰も本気では止めなかった。
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そして現実になった。
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会議室。
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管理職が集まる。
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部長。
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課長。
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人事担当。
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机の上には新聞記事。
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事故の内容。
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死亡事故。
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飲酒運転。
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実名報道。
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会社名は出ていない。
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しかし時間の問題だった。
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課長がため息をつく。
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「最悪やな……」
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誰も反論しない。
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最悪だった。
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被害者が亡くなっている。
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しかも高校生。
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社会的な印象も極めて悪い。
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人事担当が言う。
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「懲戒解雇になると思います。」
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静かになる。
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当然だった。
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飲酒運転による死亡事故。
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会社が守れる話ではない。
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部長が言う。
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「本人の人生も終わったな。」
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誰も答えない。
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しかし全員そう思っていた。
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一方、
ナオトは自席に座っていた。
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パソコンを見ている。
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だが仕事は頭に入らない。
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隣の席では、
若い上司が指示を出している。
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三十歳。
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ナオトより五歳下。
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資格も持っている。
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昇進もしている。
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昔なら腹が立った。
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しかし今は違う。
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羨ましかった。
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そして後悔した。
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勉強していれば。
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資格を取っていれば。
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酒ばかり飲まなければ。
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そういう思いが積み重なる。
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昼休み。
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社員食堂。
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事故の話題になっていた。
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「飲酒運転らしいな。」
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「高校生亡くなったんやろ。」
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「人生終わりやな。」
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その言葉が胸に刺さる。
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人生終わり。
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本当にそうだった。
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ケンジだけではない。
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河合町ソールズ全体が、
どこか終わり始めていた。
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夜。
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グループLINE。
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久しぶりに通知が入る。
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アキラだった。
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> みんな大丈夫か
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既読が付く。
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ナオト。
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シンジ。
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ユウスケ。
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タカシ。
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マサル。
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全員見ている。
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しかし誰も返事を書かない。
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何を書けばいいのか分からない。
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大丈夫ではない。
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だが、
それを認める言葉も見つからない。
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数分後。
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タカシが短く送る。
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> 無理や
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それだけだった。
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しかし全員の本音だった。
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事故からまだ一週間。
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だが世界は変わってしまった。
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そして変化はまだ続く。
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ケンジは職を失う。
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社会的信用も失う。
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被害者家族との賠償問題も始まる。
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そして残された河合町ソールズも、
少しずつ崩れ始める。
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彼らはまだ知らない。
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次に壊れるのが、
借金を抱えたタカシだということを。
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第26話「消費者金融」へ続く。




