第24話「葬儀」
事故から四日後。
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空は曇っていた。
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冷たい雨が降りそうな朝だった。
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河合町の斎場には、
多くの人が集まっていた。
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高校生だった高橋陽斗の通夜が行われる日だった。
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工業高校の同級生。
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部活動の仲間。
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教師たち。
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近所の人々。
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親族。
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まだ十七歳。
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若すぎる死だった。
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受付では、
泣きながら記帳する同級生もいた。
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「昨日まで普通にいたのに」
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「信じられへん」
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そんな声が聞こえる。
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祭壇には陽斗の写真。
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制服姿だった。
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少し照れたような笑顔。
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将来の夢を語っていた少年の顔。
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その写真が、
かえって現実を残酷にしていた。
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母親は泣き続けていた。
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父親も憔悴している。
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妹は棺の前から離れない。
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「お兄ちゃん起きてよ」
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その言葉に、
周囲の大人たちは言葉を失った。
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誰も答えられない。
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誰も起こせない。
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死はあまりにも確定的だった。
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その頃。
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ナオトは斎場の駐車場にいた。
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車から降りられない。
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手が震えていた。
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自分が加害者ではない。
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運転したのも自分ではない。
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だが関係がないとは思えなかった。
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何度も見てきた。
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飲酒運転。
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危険な運転。
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無責任な発言。
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そして何も言わなかった。
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何も止めなかった。
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その記憶が胸を締め付ける。
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ナオトは深呼吸する。
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そして会場へ向かう。
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受付。
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名前を書く。
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その瞬間、
受付にいた男性が顔を上げる。
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陽斗の伯父だった。
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偶然ではない。
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ニュースで事故のことは知られている。
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河合町は狭い。
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誰と誰が知り合いか、
すぐ広がる。
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伯父は何も言わなかった。
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しかしその視線だけで十分だった。
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怒り。
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悲しみ。
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憎しみ。
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言葉にならない感情。
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ナオトは目を伏せる。
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祭壇の前へ進む。
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陽斗の写真を見る。
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祭りの日に見かけた高校生。
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将来の話をしていた高校生。
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その姿が頭に浮かぶ。
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涙が出そうになる。
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しかし泣けない。
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自分が泣く資格があるのか分からない。
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焼香を終える。
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会場を出ようとした時だった。
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後ろから声が聞こえる。
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「なんで死ななあかんかったんや」
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陽斗の父だった。
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誰に向けた言葉か分からない。
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事故を起こした男へか。
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社会へか。
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運命へか。
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ただ、
その言葉は会場の全員の胸に刺さった。
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未来があった。
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夢があった。
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資格を取る予定だった。
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就職も決まっていた。
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好きな人もいた。
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これからだった。
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本当にこれからだった。
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それが酒を飲んだ三十五歳の男によって、
終わった。
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ナオトは会場を出る。
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外は曇り空。
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冷たい風が吹く。
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スマホを見る。
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河合町ソールズのグループLINE。
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静かなままだった。
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事故の日から、
誰もまともに話していない。
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そしてナオトは気付く。
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もう以前には戻れない。
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居酒屋。
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乾杯。
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男気。
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仲間。
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そういう言葉で笑い合っていた日々は、
終わったのだと。
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その夜。
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警察署の留置施設。
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ケンジは一人だった。
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弁護士とも会った。
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会社からも連絡が来た。
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家族からも。
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しかし何も頭に入らない。
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目を閉じるたび、
交差点が浮かぶ。
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ヘッドライト。
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自転車。
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衝突音。
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そして祭壇の写真。
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ケンジは壁を見つめる。
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人生が終わった。
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そう思った。
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だが本当の崩壊は、
まだ始まったばかりだった。
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第25話「会社の判断」へ続く。




