第20話「忘年会」
十二月二十八日。
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仕事納めの日。
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河合町の空は灰色だった。
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冷たい風が吹いている。
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多くの人にとっては一年の終わり。
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振り返りの時期。
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家族と過ごす準備をする人。
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恋人と予定を立てる人。
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帰省する人。
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様々だった。
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しかし河合町ソールズは違う。
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毎年恒例の忘年会。
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一年の締めくくり。
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そして一年で最も酒を飲む日だった。
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午後六時。
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居酒屋。
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予約席。
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「河合町ソールズ様」
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その札が置かれている。
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ケンジが一番乗りだった。
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既に一杯目を飲み始めている。
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続いて、
タカシ。
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シンジ。
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ユウスケ。
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アキラ。
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マサル。
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ナオト。
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全員揃う。
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「乾杯!」
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ジョッキがぶつかる。
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大きな音。
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歓声。
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笑顔。
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外から見れば、
仲の良い友人たちだった。
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だがその実態は違う。
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マサルは糖尿病を抱えている。
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タカシは借金に追われている。
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ユウスケは婚活に疲れている。
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アキラは人生への焦りを隠している。
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ナオトは後悔を抱えている。
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そしてケンジは、
何も変わらないことを誇りにしていた。
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酒が進む。
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二時間。
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三時間。
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空いたジョッキが積み上がる。
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料理も次々消える。
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誰も止まらない。
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ケンジが大声で笑う。
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「来年もこのメンバーやな!」
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全員が笑う。
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しかしアキラだけが、
少しだけ黙っていた。
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その言葉が妙に怖かった。
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本当に来年も同じなのだろうか。
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そう思ったからだ。
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午後十時。
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二次会。
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カラオケ。
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酒。
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酒。
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酒。
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さらに酒。
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誰かが潰れる。
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誰かが吐く。
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それでも続く。
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「男気や!」
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ケンジが叫ぶ。
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若い頃なら笑えた。
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しかし今は違う。
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三十五歳。
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体も違う。
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責任も違う。
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それでも、
彼らだけは変わらなかった。
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深夜零時。
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ナオトはトイレへ向かう。
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鏡を見る。
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疲れた顔。
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少し出た腹。
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眠そうな目。
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高校時代の自分とは別人だった。
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「何してるんやろな」
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小さく呟く。
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答えはない。
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その時、
スマホが鳴る。
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母親からだった。
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> 年末いつ帰る?
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短いメッセージ。
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ナオトは返信できなかった。
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今の自分を、
誰にも説明できる気がしなかった。
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深夜一時。
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忘年会は終わる。
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店の外。
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冷たい空気。
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全員かなり酔っていた。
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ケンジは特に酷い。
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顔は真っ赤。
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足元も少しふらつく。
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ナオトが言う。
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「代行呼ぶか?」
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一瞬だけ静かになる。
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ケンジは笑った。
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「大丈夫。」
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またその言葉だった。
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「家まで五分や。」
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タカシも笑う。
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「近い近い。」
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シンジも頷く。
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「問題ない。」
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誰も本気で止めない。
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止めるべきだと分かっていても。
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空気を壊したくない。
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面倒だから。
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今まで大丈夫だったから。
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そんな理由だった。
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ケンジは車に乗る。
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エンジンをかける。
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ヘッドライトが点灯する。
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ナオトはその光を見つめる。
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胸騒ぎがした。
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強い胸騒ぎだった。
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しかし何も言えない。
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ケンジの車が走り出す。
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赤いテールランプ。
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暗い夜道へ消えていく。
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その後ろ姿を見ながら、
ナオトは思う。
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「本当に大丈夫なんか」
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だが、
その問いに答える者はいなかった。
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そして年が明ける。
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新しい一年。
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だが彼らはまだ知らない。
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この年が、
河合町ソールズ崩壊の始まりになることを。
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そして春。
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一人の高校生が命を失う。
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その瞬間から、
すべてが変わり始める。
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第三章「崩壊の始まり」
第21話「春の交差点」へ続く。




