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Forever Local」  作者: こうた
第二章「止まった人生」

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19/82

第19話「冬の前触れ」

十一月。



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朝晩の空気が冷たくなってきた。



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河合町の田畑には白い霧がかかる日も増える。



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季節は確実に進んでいた。



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しかし河合町ソールズだけは、


相変わらず同じ場所にいた。



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金曜日。



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午後七時。



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いつもの居酒屋。



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いつもの席。



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いつもの生ビール。



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ケンジがジョッキを掲げる。



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「乾杯!」



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全員がグラスを合わせる。



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何度繰り返したか分からない光景だった。



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ナオトは周囲を見渡す。



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店内には若い会社員もいる。



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夫婦らしき客もいる。



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家族連れもいる。



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彼らは食事を終えると帰る。



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しかし河合町ソールズは違う。



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一次会は始まりに過ぎない。



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二次会。



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三次会。



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気付けば深夜。



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それが普通になっていた。



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マサルが焼き鳥を口に運ぶ。



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糖尿病の診断から一か月。



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だが何も変わっていない。



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酒も。



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食事も。



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生活も。



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「病院どうやった?」



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ナオトが聞く。



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マサルは笑う。



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「怒られた。」



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全員が笑う。



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しかしナオトは笑えない。



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マサルの顔色は明らかに悪かった。



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目の下のクマ。



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むくんだ顔。



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異常な汗。



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それでも本人は、


まだ大丈夫だと思っている。



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いや、


思い込もうとしている。



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認めたくないのだ。



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人生が壊れ始めていることを。



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タカシも同じだった。



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借金は七十万円を超えていた。



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だが誰にも言っていない。



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言えば終わる気がするからだ。



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「男気」がある仲間たち。



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しかし本当に困ったことは、


誰にも言えない。



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それが河合町ソールズの不思議なルールだった。



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夜十時。



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店を出る。



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冷たい風が吹く。



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ケンジが笑う。



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「まだ早いやろ。」



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全員が笑う。



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誰も帰らない。



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誰も止めない。



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コンビニへ向かう。



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缶ビールを買う。



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駐車場に座る。



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三十五歳の男たちが、


高校生みたいに缶ビールを飲んでいる。



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昔は楽しかった。



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今はどうだろう。



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ナオトには分からなかった。



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その時だった。



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アキラが突然言う。



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「なぁ。」



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「俺ら十年後どうなってると思う?」



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珍しく真面目な質問だった。



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沈黙。



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ケンジが笑う。



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「変わらんやろ。」



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タカシも笑う。



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「またここで飲んでるわ。」



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全員が笑う。



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しかしナオトだけは笑えなかった。



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本当にそうなのだろうか。



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十年後。



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四十五歳。



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酒。



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ギャンブル。



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借金。



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病気。



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今の延長線上に、


幸せな未来は見えなかった。



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むしろ逆だった。



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どこかで何かが壊れる。



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そんな予感がしていた。



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アキラも同じだったのだろう。



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だから聞いた。



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しかし誰も答えない。



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答えたくない。



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未来を想像すると、


不安になるからだ。



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深夜零時。



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解散。



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それぞれの車へ向かう。



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ナオトはふと立ち止まる。



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ケンジを見る。



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酔っている。



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間違いなく酔っている。



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それでも運転席に乗り込む。



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エンジンをかける。



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誰も何も言わない。



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「近いから。」



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「慣れてるから。」



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「今まで大丈夫だったから。」



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そんな言葉が頭をよぎる。



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だがナオトは感じていた。



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それは安全の理由ではない。



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ただの慣れだ。



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危険に慣れてしまっただけだ。



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ケンジの車が走り去る。



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赤いテールランプが遠ざかる。



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ナオトはなぜか、


嫌な予感を覚えた。



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理由は分からない。



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ただ胸の奥がざわつく。



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冬の空気は冷たかった。



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そして運命もまた、


静かに動き始めていた。



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数週間後。



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河合町ソールズにとって、


取り返しのつかない夜が訪れる。



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未来のある高校生と、


未来から目を背け続けた男たち。



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二つの人生が交差する日まで、


もう時間は残されていなかった。



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第20話「忘年会」へ続く。

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