第18話「忘年会の約束」
十月。
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秋が深まり、夜が少しずつ長くなる。
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河合町の街路樹も色づき始めていた。
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だが河合町ソールズの夜は、いつも通りだった。
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居酒屋。
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同じ席。
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同じメンバー。
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そして同じ会話。
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ケンジがビールを置く。
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「そろそろ忘年会の話しとくか」
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まだ十月だった。
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だが彼らにとっては普通だった。
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先の予定を早く埋める。
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それは“続くこと”の確認でもあった。
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タカシが笑う。
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「早すぎやろ」
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シンジも笑う。
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「毎年同じ店やしな」
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ユウスケが頷く。
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「予約取られたら困るし」
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ナオトは少しだけ違和感を覚える。
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忘年会。
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一年の終わり。
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つまり区切り。
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しかし彼らの一年に、
区切りらしい区切りはない。
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ただの延長だった。
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ケンジが言う。
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「今年も派手にやるぞ」
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全員が笑う。
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その笑いの中で、
ナオトはふと思う。
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“去年の忘年会と何が違う?”
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答えは出ない。
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夜。
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店を出る。
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少し肌寒い。
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アキラが缶コーヒーを飲みながら言う。
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「今年も終わるな」
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タカシが笑う。
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「早いな」
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しかしナオトは違う感覚を持っていた。
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早いのではない。
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同じなのだ。
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一年が短く感じる理由。
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それは変化がないからだ。
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月曜も。
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火曜も。
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金曜も。
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土曜も。
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すべてが繰り返し。
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記憶に残る出来事が少ない。
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だから時間が溶ける。
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ケンジが言う。
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「来年こそ何かやるか」
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その言葉は毎年聞いている。
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そして毎年何も起きない。
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誰もそれを指摘しない。
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指摘した瞬間、
この関係が壊れる気がするからだ。
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ナオトは空を見上げる。
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雲がゆっくり流れている。
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その時、
スマホが鳴る。
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河合町ソールズ。
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タカシ
> 明日も飲む?
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シンジ
> 行く
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ケンジ
> 行く
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ユウスケ
> 行く
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アキラ
> 行く
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ナオトは画面を見つめる。
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指が止まる。
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一瞬だけ、
違う選択肢が頭をよぎる。
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「断る」
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しかしその言葉は出ない。
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理由は簡単だった。
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断った後の夜が想像できないからだ。
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一人。
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静かな部屋。
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何もない時間。
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それが怖い。
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だから送る。
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> 行く
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送信。
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そしていつもの後悔が、
ゆっくりとやってくる。
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帰宅途中。
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ナオトはコンビニに寄る。
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缶ビールを買う。
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それが癖だった。
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飲み会の後でも、
何か足りない気がするからだ。
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帰宅。
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部屋の明かりをつける。
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机の上。
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資格の参考書。
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結婚式の招待状。
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どちらも進んでいない。
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ナオトは椅子に座る。
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缶ビールを開ける。
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静かに飲む。
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その時ふと思う。
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このまま忘年会を迎え、
そのまま新年を迎え、
また同じ一年が始まるのだろう。
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そして気付く。
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自分たちは、
一年を生きているのではない。
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同じ一日を繰り返しているだけだ。
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窓の外は静かだった。
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だがその静けさの中で、
何かが少しずつ崩れていた。
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まだ誰も気付かない。
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しかし確実に。
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すぐそこまで、
破滅は近づいていた。
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第19話「冬の前触れ」へ続く。




