第17話「秋祭りの夜」
九月。
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夏の暑さが少しずつ和らぎ始める。
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河合町では秋祭りの準備が始まっていた。
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提灯。
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屋台。
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神社の境内。
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子供たちの笑い声。
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昔から変わらない風景だった。
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河合町ソールズのメンバーも毎年祭りに集まる。
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高校生の頃から続いている恒例行事だった。
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祭り当日。
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午後六時。
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神社周辺は多くの人で賑わっていた。
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家族連れ。
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学生。
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カップル。
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子供たち。
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ナオトはその光景を見ながら歩く。
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少しだけ居心地が悪い。
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理由は分かっていた。
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周囲には家族が多い。
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恋人同士も多い。
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三十五歳の男だけの集団は、
少し浮いて見えた。
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「おう!」
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ケンジが手を振る。
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いつものメンバーが揃っている。
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酒も既に入っていた。
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タカシ。
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シンジ。
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ユウスケ。
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アキラ。
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マサル。
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そしてケンジ。
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缶ビールを持ちながら笑っている。
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「祭りやぞ!」
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ケンジのテンションは高い。
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毎年そうだった。
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祭りは彼らにとって、
昔へ戻れる数少ない場所だった。
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学生時代。
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神社の石段。
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出店。
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花火。
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好きだった女の子。
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そんな思い出を語りながら歩く。
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しかし、
周囲を見れば現実も見える。
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同級生たちは家族と来ている。
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子供を抱いている。
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妻と笑っている。
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河合町ソールズだけが、
高校生の延長みたいだった。
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タカシが言う。
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「見ろよ。」
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指差した先。
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同級生の森本だった。
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奥さん。
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小学生くらいの息子。
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幸せそうに歩いている。
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シンジが苦笑する。
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「もうあんな歳か。」
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誰も笑わない。
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皆同じ歳だった。
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ナオトは目を逸らす。
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羨ましい。
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認めたくないが、
羨ましい。
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その時だった。
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高校生の集団が通り過ぎる。
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楽しそうに笑っている。
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男子。
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女子。
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未来がある。
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そんな風に見えた。
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その中に一人、
自転車を押して歩く男子高校生がいた。
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背は高い。
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少し真面目そうな顔。
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制服姿。
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友達と笑っている。
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ナオトは何となく目で追った。
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理由はない。
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ただ、
昔の自分たちを思い出したからだ。
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その高校生の名前を、
ナオトはまだ知らない。
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知らなくて当然だった。
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ただ祭りに来ていただけの、
どこにでもいる高校二年生。
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名前は
高橋陽斗
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サッカー部。
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工業高校生。
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将来は整備士を目指している。
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妹がいる。
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両親もいる。
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ごく普通の高校生だった。
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そして、
数か月後に死ぬ。
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まだ誰も知らない。
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陽斗は友人たちと笑いながら、
神社の階段を降りていく。
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未来を信じていた。
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将来の話をしていた。
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資格を取りたい。
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就職したい。
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車が欲しい。
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当たり前の夢だった。
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ナオトはその後ろ姿を見つめる。
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ほんの数秒。
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その時、
胸の奥に妙な感覚が走る。
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何かを失った人間が、
何かを持っている人間を見る時の感覚。
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それは嫉妬ではなかった。
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後悔だった。
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もし自分が十八歳に戻れたら。
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そんな考えが頭をよぎる。
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だが人生は戻らない。
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祭りの太鼓が鳴る。
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酒が回る。
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笑い声が響く。
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ケンジが叫ぶ。
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「飲むぞ!」
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全員が笑う。
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夜は更けていく。
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だがその夜、
運命は静かに動き始めていた。
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陽斗は未来へ向かって歩いている。
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河合町ソールズは、
破滅へ向かって歩いている。
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まだ交わらない二つの人生。
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しかし数か月後。
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飲酒運転によって、
その道は最悪の形で交差する。
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そして誰かの人生が終わる。
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第18話「忘年会の約束」へ続く。




